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【完結】魔王への階段  作者: 稲山 裕
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一、魔王討伐からの凱旋

  一、魔王討伐からの凱旋




 勇者一行――。


 たったの数名で、数千数万の魔物を薙ぎ払い、その中心である魔族と魔王を討つ。


 その役目は、強大な力を持つ魔王を倒す一点突破の力と、その他を寄せ付けない範囲殲滅の力が揃っていなくてはならない。


 今回の勇者一行は、範囲殲滅に一人の魔導士が、勇者含め残りの三人が一点突破を極めた後、魔王を討伐した。


 かくして、勇者一行は王都ヘルンベルンへと凱旋。

 その大勝利を、国中をあげて盛大に祝した。



   **



「勇者リーツォ。戦士ガルン、忍びの者ムメイ、女魔導士イザ。その者達四名に、新たな領地と男爵位を授ける。今後もこの国、国民のために力を貸してくれ」


「国王様。ありがたき幸せにございます。我ら四名、謹んで叙爵賜り、国のため国民のために、尽力いたします」


 国王と勇者の形式的な会話が終わり、叙爵式はピークを迎えた。




 そして……、四名それぞれが別々の方角に向かい、新たな領地の主としての生活が始まる。


 ――はずであった。


 一人を除いては。


 その一人とは、魔導士イザ。


 やっと、最愛の人と添い遂げる事が出来ると喜んで、その愛する人の元へと戻った。

 その扉を開けた時……。




「ダーリン? ねぇ、せっかくの再会をかくれんぼで始める気? そんなの良いから早く顔を見せて? フラガってば。もう、どこに隠れてるのよ……」


 それほど広くはない、たった二部屋の安アパートの一室で、どこにも見当たらない。


「まさか、買い物にでも行ってるのかしら。二人でお祝いしようって? そんなの、報奨金も手に入ったんだからどこか食べに行けばいいのに……自分で作りたがるものね、フラガは――」


 ――着慣れた外套を外し、狭いクローゼットを開けた瞬間に、その言葉は凍り付いた。




「……ふ、フラガ。冗談はやめてよ。そういうドッキリ的なのって、今する事じゃないでしょ?」


 冗談、と言った。


 それが冗談ではない事は、見てすぐに分かったはずなのに。


 イザは、認めたくなかった。


 小さく折りたたまれたかのように潰された、無残な遺骸を。


 およそ人の力で、そんな形には出来ないような。




 腰から……いや、胸の辺りで無理矢理たたみ折られて、手足の絡まった四角い造形物になっている。


 フラガは、それなりに大柄な男だ。


 勇者などには比べるべくもないが、一般人としてなら強い部類の人間だ。


 それが、こんな風に潰されるはずがない。




「フラガじゃ……ないわよね? 誰か別のひとよ。そうよね?」


 出血があまり見当たらなくて、もしかしたら、よく出来た人形なのかもしれない。


 そう思いたくなる一方で、それは、明らかに乾いた血のりがこびりついているのが見て取れた。


「……うそよ。うそ、うそだと言って。うそ! ぜったいに! うそなんだから!」


 イザは、やがて叫びながらその造形物の、頭をそっと持ち上げた。


 それは、体からぶら下がるように、いびつに伸びた首に吊られていた。


 折られているから、グラリとその頭だけが持ち上がる。




「いやだ……いや……。どうしてなの? なんで? いやだ! いや! いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


 その叫びは、安アパートの住人達を怯えさせた後、ちらほらと野次馬に変えた。


 そこに魔導士イザの恋人が住んでいるのが有名だったせいで、そこが叫び声の元凶だというのは皆、すぐに分かったという。




「フラガのにぃちゃん、てか……イザの声だろう? どうしたぁ?」


 フラガとたまに飲みに行く仲間が、意を決して扉を開き、クローゼットの前で固まっているイザを見て声を掛けた。


「おぉい。お疲れ……さん。なんだよ、さっきの叫び声はよぉ。みんなビビっちまったって。なぁ」


 いつものイザではない。

 それは、あまり空気を読まない彼にもすぐに分かった。


 だが、いつものように声を掛けるしかない。そんな空気だったのだ。


 あまりの異変に、誰もどうして良いのか分からない。

 だから極力、いつものように声を掛けた。




「ねぇ…………。この人、誰か、訪ねてきた?」


「え。いや、わかんねぇ。昨日は俺達で祝ったんだ。でも、お前さんが戻るかもしれねぇって、夜も早いうちに切り上げて解散した。お前さんを待ってた。そのはずだ」


 何か、よからぬ事が起きていて、今はあらゆる情報を伝えるべきだ。

 そう思った彼は一生懸命に、その記憶を伝えた。




「誰か、来た? 誰も気付かなかったの?」


 その声は、怒りを押し殺しているのか、とにかく感情が読み取れなかった。


 かろうじて怒りと、涙が見えたので悲しんでいるのだと、それだけが分かった。


「し……しらねぇ。誰も来てねぇ。たぶんだが。こんなとこに来るやつは、祝いの席にみな来てる。後から来るやつなんていなかったはずだ」


 ようやく、イザの知りたい事が語られた。




「……そう。ありがとう」


 そう言って男に振り向いた顔は、全ての感情を失った氷の面のようだった。

 その白い肌がより、そう思わせた。


 絶世の美女と謳われたその美貌が、まるでそうは見えないくらいに、抑揚のない表情に反して血管が浮き出てそして、歪んでいた。


「い……イザ。何があったん……だ」

 言い終わる頃には、彼にもそれが見えた。


 近くまで入るんじゃなかったと、後悔したがもう遅かった。




「ひいいいいいいい! な、なんだよこれは!」


 良き隣人、良き友の亡骸を見て、叫んだ直後に彼は卒倒した。


 それほどに、フラガは残酷な亡骸へと変えられていた。

 


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