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致死量の新薬

深夜、町外れの病院に、ある男、アイ氏が訪ねた。

その病院は日没から日の出まで営業する、風変わりな病院だった。


「先生!目が、目が見えなくなったんです!」


駆け込んできたアイ氏のあまりに悲痛な声に、待合室に一人いた年配の先客が声をかけた。


「急がれているようですね。

私より先に診察してもらいますか?私は急ぎではないので……」


「いいんですか?!

僕、突然目が見えなくなってしまって。原因が分からないものですから、かかりつけのこの病院に来たんです」


「それは大変でしたね……あっ、前の人の診察が終わったみたいですよ。

行ってきてくださいな」


「これはこれはどうも、ありがとうございます!

行ってきます」


ぺこぺこ頭を下げながら診察室へと向かうと、かかりつけの先生が座って待っていた。


「あれ?アイ氏じゃないですか。

先週処方した新薬はまだ残っていると思うのですが……」


「あぁ、今日来させていただいたのはあの老眼用の新薬がなくなったとかではなくて。

あの!聞いてください、目が見えなくなったんです!」


「え、そうなんですか?

えっと、それはどういうことでしょうか?

経緯とかをお聞きしても?」


アイ氏は先ほどまでの自分の行動を思い出した。

特段普段と異なることをした覚えはなかった。

強いていうなら先週新しく処方された新薬を風呂に入る前に飲んだだけだ。


「僕、八時くらいまで残業していて、お風呂に十一時頃に入ったんです。

湯気がもうもうと立ち上って視界が悪くなったんですけど、その見えにくさをその時は疑問に思わなかったんです。

でもお風呂から上がってテレビでニュースを見ているとですね、突然徐々に視界が狭まってきたんです!

視界の端のほうからだんだん黒くなっていく感じでした。

最終的には視界が全部真っ暗になってしまって……

もうどうしたらいいかわからなくなってここまで来たんです」


医者はカルテに詳細を書き込みながら聞いていた。


「なるほどなるほど。薬を飲んで風呂から上がってテレビを見ていたら目の前が真っ暗になったと。

これはいったいどうしたらいいのでしょう……」


アイ氏の説明に医者は困惑の表情を浮かべた。

アイ氏もここで医者に何もされなかったら目が見えないままだと思い、必至に言いつのった。


「先生、治るんですか?それが一番知りたいんです。

明日は会社が休みなので、手術でもなんでもしてもらって構いませんから。

どうにか見えるようにしていただけませんか?」


医者はカルテにさらさらと何かを書き込み、アイ氏に処置を告げた。


「そうですね~、今はまだなんとも言えませんから、とりあえず明日また来ていただけますか?

明日もまだその状態が続くようであれば、何かしらの対策を講じましょう。

とりあえず追加の新薬を処方しときますね~」


しかしそれではアイ氏は安心できなかった。

一生目が見えないままだったらどうする、と医者に詰めよった。


「何とかしてくださいよ!

このまま盲目だったら生きていけない!

会社だって行かなきゃならないのに!」


「そうですね~。

じゃあフェロミアという錠剤も一緒に処方しておきますね。

食後に4錠、水と一緒に飲んでください」


アイ氏は胡乱けな目を向けた。


「それだけでほんとうに大丈夫なんですか?

先生、治りますよね?」


「ええ大丈夫です、治りますよ。

さぁほら、次の方がお待ちですから」


「……分かりました。

信じますからね。これでも見えなくならなかったら、ちゃんと手術もしてくださいね」


「はいはい。

次の方~、どうぞお入りくださ~い」


アイ氏は病院常駐の薬剤師から新薬とフェロミアの処方をしてもらい、家に帰っていった。


そして診察室では、医者とアイ氏に順番を譲った年配の患者が二人して不思議そうな顔で話し合っていた。


「さっきの方、どう見ても目が見えていましたよね?」


「ええ。おそらく風呂上がりということでしたから、立ちくらみなさったんでしょうが……病院まで一人で来て、それに医者の私と目を合わせて喋っていたのに、それでも尚『目が見えない』と主張するのですから、ホント、どうしたらいいのかと思いましたよ~」


「『目が見えているか』なんてよく考えたら分かる、いや考えなくても見えてるんだから分かると思うのにね」


二人は顔を見合わせ笑いあった。




翌日、日没後。

アイ氏は病院に来なかった。

医者は『見えていることに気がついたんだな』と思った。

いつも通り診察していると、昨夜の年配の患者が病院に駆け込んできた。


「せ、先生、大変です!

昨夜の自称失明した方、亡くなったらしいですよ!」


医者は、まさかそんなはずは!と思うがもう遅い。

誤った診断をしてしまったのかもしれないが、悔やんでも自分の患者が亡くなったのは事実だ。

責任問題にもなるだろうし、そんな誤診をした自分が信じられなかった。

途方にくれ頭を抱えた医者に、年配の患者は続きを話した。


「先生、続きがあります!

あの人、大量の錠剤を飲み込んでいたらしく、おそらく自殺なんじゃないかと言われています。

そう、恥死量の錠剤を飲んだみたいです!」


医者は気づいた、自分の診断は間違っていなかったと。

読んでくださりありがとうございました

m(_ _)m

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