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夢だけど、夢じゃない





 真っ白な天井が見える。

 それになんだか温かい、布団もある。

「あれ? ここはどこだっけ」

 さっきまでバンちゃんと一緒にいて、あたしは寝ちゃったんだ。

 なんだか喉が渇いて、いつもベッドの近くに置いているペットボトルを探した。

「違う、ここはベッドだ。私の部屋…」

 目を覚ましたのは、いつもの部屋、いつものベッド。枕元には眼鏡があるし、スマホがあるし、飲みかけのペットボトルがある。

 ワンルームの一人部屋。ベッドと机と大きな本棚しかない。学生の一人暮らしにはちょっと広めの部屋。

 身体を起こして、スマホを手に取ってみる。『2031年、6月6日の6:55』と表示された。

「アラームの少し前か」

 今日は二限からだから、ゆっくり寝ててもいいやと思っていたのに目が覚めてしまった。最近よくみるこの夢せいだ。

 ここではないどこかで生きていた、きっと私だった人の記憶。そしてー

「バンちゃん。私の愛しい人」

 昔から断片的に見ていた夢が、最近は物語のように繋がってみる夢に変わった。ここ1ヶ月ほどで、バンちゃんとの出会いからしばらくの夢を見た。

 初めはなかなか覚えられなかった登場人物達のことも、少しずつ記憶に残るようになった。

 よく覚えていること、それはバンという男の人のこと。彼は私の家族であり、仕事の相棒であり、愛しい人だった気がする。

 いつも私の夢には彼が出てきたし、喧嘩もしたけど、いつもそこには温かい気持ちがあった。

 私はいわゆるエスパーなのかサイキックなのか、不思議な力を持っていて、そして人ではないものと一緒に育った。そう、私達がいた世界は人とそれ以外のものが当たり前にいて、助け合うこともあれば敵対することもあった。

「私は森の中でお姫様だった、そしてバンちゃんを連れて行った? その後に見た夢だと、刀を作ったとか、家を作ってバンちゃんたちと一緒に住むってことだったし、話がどう進んでるのか全然わからないな」

 今見た夢が何だったのか、わからなくならないように、できる限り書き出す。今日見た夢は朝起きて日記に残す。それが習慣になってきた。一冊の本が作れそうな気がする。

「力を使うと幼児退行してしまう。見守ってくれる妖精さんがいた。力の訓練が必要? 私の力も最初から使えるものではなかったんだ。謎が深まるばかりだ」

 ーーバリバリバリ

 雷がなっている、近くから聞こえる音だ。さっきまで晴れていたはずなのに、雨が降り出してきて、一気に強い雨音がし始める。

 このところ自然災害が多発していて、今日の雨ももしかしたら何か大きな災害の一因となるかもしれない。先日、〇〇県では地震による地割れで町が何個か分断。死者多数、行方不明者多数。地盤沈下で消えてなくなった地域もあった。確かその前には△△県で原因不明で山が崩れたとか、穴が空いたようだとか。その地域もたくさんの死者が出たと聞く。

 今日のような雷や雨も多く発生しているし、大雨によって起きる土砂災害や川の氾濫も多発している。

「雷ってみんな嫌いなのが普通なんだよね」

 子どもの頃から、雷は私にとっては心地の良い音だった。夢でよく見るお兄ちゃんが雷で花とか鳥とか作って遊んでいたから。

 それがバンちゃんで、私と一緒に修行していた日々の夢だったってことに気がついたのは最近のこと。

 子どもの頃はわからなかったけど、夢で見ていた世界はきっと私の前世。違う世界で生きていた記憶。

 そうなるとバンちゃんと2人で色々危険なこともしていたのだけど、あの力は普通じゃない。この世界と比べてとかそんな次元じゃない。あんなふうに空を飛んだり、火や雷で色々作って遊んでたけど、他の人にはできないことだったんだから。

 私の仕事は妖魔の退治と森を守ること。その力を頼りにたくさんの人が依頼してきて、いつも忙しかった。

 ベット横の窓ガラスに近づいて、まだ朝なのに暗くなってしまった空を見つめた。黄色や白の稲妻が、ビリビリと大気を揺らしている気がする。

「雷はバンちゃんの得意技だったな」

 この世界にいるのに、ここではない世界の、それも今ですらない記憶でいっぱいになっている私は、どんどんこの世界に馴染めなくなってきている。

 毎日学校へ行って勉強しても、夜眠った私は夢の中で妖術の訓練をしている。起きている今が本当なのか、眠っているあの時が本当なのか。一体どちらが幸せなのだろう。

「バンちゃんに会ってみたいな」

 子どもの頃から、ずっと思っていること。今の私が、夢の私と同じでない事はわかっている。不思議な力なんてないし、こっちの世界で幽霊を見るって人がいるのを聞くけど、私にはできない。調べてみても、本には載っていないかった、本当にここじゃないどこかの夢。実際にはいない、私の夢の中の人。

 私が信じたいだけ、これが私の前世の記憶であると。誰にも理解されない、それは夢なんだからと言われてしまうだけの、夢物語でしかないのだと。

 ーーピロリン

 スマホの通知オンだった。

『本日、雷雲の急成長により大気が不安定です。通学等、危険が予想されるため、本日は学校を休校とし、自宅にて待機をしてください。気象情報をよく確認して、避難指示があった場合には適切に行動する事…』

 学校からの一斉送信で、今日は一日休みになった。

 オンラインもなしという事は、電波状況も悪くなる見込みなのだろう。電気も止まるかもしれない。学校も被害を出さないように必死だ。この前大雨の日に学校にむかった子が亡くなったというニュースがあったから。

 部屋の明かりつけて、パソコンを開いた。今日のニュースでも見てみよう。気象情報も確認しないと。

 ーーパチン

 部屋の電気が消えた。

 停電だろうか、雷の影響かもしれない。

 私は諦めてスマホを見る。しかしスマホも真っ暗で、うんともすんとも言わない。

「おかしいな」

 薄暗い室内、外の雷が光るときだけ、室内がハッと明るくなる。

 一体何が起きているんだ。そろそろと歩いて、懐中電灯を探しに行く。支給されてる災害対策バックに入っていた気がするんだけど、どこにしまったのか忘れてしまった。

 ベランダに出るための掃き出し窓のカーテンを開けて、とりあえず部屋を明るくしよう。

 ーーシャー

「何あれ…」

 外の様子がおかしい、空に何かある。

 アパートや民家が多いこの地区の上空、家の屋根よりはだいぶ高い位置に、雷が飛び出している塊のようなものがある。なんだろう真っ黒な丸い何か、空に穴が空いているように見える。そこから稲妻が広がっているように見えた。いや、もしかしたら吸い込まれているのかもしれない。

「嘘でしょ、まだこれも夢なの?」

 私は自分の左腕を右手でつねってみた。普通に痛かった。どうやら夢ではないようだ。

 一体何が起こっているんだ、自然現象でこんなことが起きるのだろうか。私の勉強不足で未知との遭遇のようなことになっているのか。

 そのよくわからない塊を観察していると、稲妻がだんだん集まって、太い光の紐みたいになっていた。

 外から人の騒ぐ声がする、通勤時間で外にいた人もいるのかもしれない。その人たちも気がついたのだろうか。そういえば、雷の音がだんだん小さくなっていた。

 やはり雷を吸い込んでいるのだろうか。集まっていく光の束が、黒い穴のから出た大きな蛇のような、龍のような塊になってうねっている。

「あれって、バンちゃんの技に似ている…」

 私は急いで服を着替えた。なんだか心が逸る。あれは、もしかしたら、本当に……。

 玄関に走って、なんでもいいからサンダルを履いて、外に飛び出した。

 雨が降っていた、風が強く吹く時だけ雨がいっぱい体に当たる。多分そんなに降ってはいない。走ってあれに近いところに向かう。

 どこだろう、あれの真下、1番近くはどこだ。外に出てもだいぶ遠い位置にあるのか、全然近づいている気がしない。

 学校の近く、だろうか。外には人がほとんどいない、人の騒ぐ声は聞こえるのに。みんな危ないと思って家の中で見ているのかもしれない。

 雷が生き物のように動き出した。まるで大きな龍、私はあれを知っている。2人で練習した夢を見た。

「バンちゃん、あなたなの?」

 久々に走ったせいで、口の中が鉄の味でいっぱいになる。まだ空にある何かがある場所に近づけない。

 ーーバリバリバリ

 大きな音、雷が落ちるような。

 立ち止まって空を見た。

 いつの間にか上空にあった黒い穴がなくなっていて、自由になった雷の龍が空を飛んでいるように見える。雷の龍は暴れるように飛び回りそそ高度が低くなっていく。

「あれって、落ちてる?」

 雷の龍は空を飛ぼうとしても飛べずに抗いながら落ちているようにも見える。落ちてくるにつれ、体の外へと稲妻を飛び散らしだんだんと細くなっていく。

「うそ、こっちにきてる?」

 雷の龍が、どんどん大きくなって見える。白いような黄色いような発光した塊が、こんな住宅街に落ちたら……。

 私は立ち止まったまま、空を見続けた。

「お願いだからもっと小さくなって」

 かなり高い位置にいたのか、動き回っているせいなのか、雷の龍はすぐには落ちてこない、その間にかなり小さくなってきた。

 空気がひりつく、少しでも動いたら全身が静電気で痺れてしまうような怖さがあった。

 ーーバチン

 雷の龍は突然弾けた。おそらく体だった長い胴の部分が花火のように弾けた。そしてその中心くらいのところに何かが残る。それだけが落下していく。

 私は走り出した。その何かが落ちる場所を目指して。

 多分学校の方だろう。もしかしたら校庭のある山沿いの方だろうか、そこならここから近い、走っていけばすぐ着く。

「お願い、もしバンちゃんなら……」

 これが夢なのか、本当なのか、もう訳がわからない。こんな事夢でしかないはずだったのに。

 何かが落ちていった。住宅の向こうのほうで見えなくなってしまった。急いで行かないと、もしバンちゃんだったら、会わなくちゃ。私は走った。

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