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人鬼〜JINKI〜 時空の守護者たち  作者: 志摩
4、物語の始まりー異世界の生き物の集結

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異世界の生態系について?




 3人で空を飛んで帰ってくると、玄関口で黒井が待っていた。

「お帰りなさい。いやどうなってんすか! あの燃える蝶々さんは!」

 モニターと画像でしか見ていないはずの黒井が、何だか文句を言いながら近寄ってきた。

「あれは爆蝶って言うんだ。これから詳しく話すね。あっちの世界ではよくいるのよ」

「全くどんな世界なんすか! あっちは!」

 ぷんぷんしながら、私の腕を掴み、職員室へ連れて行く。今日の報告書をまとめなければならないのだろう。

 私は鉄と曼ちゃんに手を振り、2人と別れる。いつものルーティン化したこの流れで、私と黒井は事務仕事、鉄と曼ちゃんは学校裏の開拓作業と分担して動くようになった。

 いつものことながら、仕方なく黒井とテーブルに向かい合って座る。

 私はコーヒーを淹れてもらって、黒井はパソコンを取り出し、記録を始める。



「はあ、キョウモ、キロクデスヨ」

「そんな、片言にならなくても……」

「ええ、ごほん。ちゃんとします。まず、今日の蝶々さんについてね」

「爆蝶ですね、あれは」

「はい爆発、蝶々でしょうか」

「そうですね」


「そんな燃える蝶々が当たり前にいるんですね」

「まあね、あちらではそれが普通だったから、やばいとかって考えたことないな」

「あんな火が飛んでいるのが普通なんて、充分恐ろしい世界ですよ」

「常に飛んでいる訳ではないんだけどね。まあいるところにはいるよってくらいだね」


「どこに住んでるんですか?」

「いわゆる火山地帯というか、火のある近くならどこでも……かな」

「なるほど、どうやったら駆除できます?」

「羽の先に火がついてるんだけど、それを消したらいいよ。飛んでない時は、ほんとにちょびっとだけの火。飛ぶ時は風を吸い込むというか、それで火が大きくなる」

「なるほど、蝶ってことは、幼虫から大きくなるんすか?」

「確かそうだったと思うよ。幼虫、蛹の時は火はついてないよ、確か。蝶になったあとに、発火性の何かが出るんじゃない? あちらでそんなに深く考えたことないな」


 確かにこちらの知識的に考えてみると、よくわからない気生き物なのかもしれない。体でガソリンみたいなものを作っているのだろうか。


「そうなんですね。何を食べるとかは?」

「あー、あれはね、こちらの蝶々と違って口と歯があるの。それで普通に食べます、肉食ですね」






「ん? それは蝶々なんですか?」




 応えるまでにかなりの間があった。

 少し時が止まったようだ。


 黒井は目を点にしてメモをしている手も完全に止まっていた。



「どうだろうね。あっちでは蝶ってつく名前だね。そうね、こちらの世界ほど細かい区分はないかなー」

「そうなんすね……区分、とかは流石にないんすね。そちらの世界は。なんとか虫は親戚ですみたいな」

「そう言えば、あっちの世界の生き物とかって、確かに詳しく話したことないかもね……」


「え! あ、ちょっと待ってください。教えてください。それは報告書じゃない方に書くので! 今メモを取り出しますから」

 黒井があちらの世界について書き溜めているノートを引っ張り出してきて、オッケーサインをした。

「そんな大袈裟な……。いや報告書を先にな……」

「いや! こっちも報告書に載せるかもしれないんで必要!」

「ええー。また話が長くなるでしょう……もう。そんなメモするほどのことじゃないんじゃない? まあ山があったり、川があったり人が住んでたり、環境というかそんなところはこちらと大して変わらないよね。まあ文化的には江戸時代? くらいかなあ」

「おお! そういう説明は鉄くんからは出てこないっすね。助かります」

「そうね、あちらにしかいない生き物……『オオハラ』、『ボン』、『ブン』、『ミズネ』、『クマオ』……」

「え? 多い! 待って!」


 黒井が真面目にひとつずつ名前を書いているので、仕方ないから、ひとつずつ、ゆっくり話して、たっぷり説明してあげるとしよう。


「『オオハラ』は大きいお腹ってことですね。見た目は蛙のような気持ち悪いやつ。ヒキガエルみたい。オスがピンク、メスが紫。顔の3倍くらいの体というかまんまるなお腹です。メスのが大きくて体がベタベタしています。毒の液のようなものがついていて、触ると自分も皮膚が紫になる。


 次の、『ボン』は黒いボールのような虫です。人の顔くらいの大きさかな。申し訳ない程度の羽がついてるけど、飛べないで跳ねます。泣き声がボンで、名前がそれになった。口から出るガスに火がついて、火炎放射器みたいになります。


 次の、『ブン』は赤っぽい茶色で指1本くらいの大きさ体が細くて小さい。そしてびっくりなのが羽が何枚もあって、それが両側に扇子のように広がって、丸く手のひらくらいの大きさに広がって全体的には大きな虫に見えるみたいなやつ。ぶんぶん飛ぶから『ブン』かな、多分。羽が硬くてうっかり触ると切れます。指くらいは軽く吹っ飛びます。こいつの羽から武器を作れるらしい。

 次の、『ミズネ』は……」


「いや待って! 無理そんなに急にいっぱい出さないで!」

 

 黒井は必死に書き続けている。結局、報告書は書いてないんだが、いいのだろうか。今日もまた夜までゆっくりと色々な話が続くのだろう。


「今の生き物たちは妖怪ではないんですか?」


「違うね、今こちらにいる爆蝶もあっちでは妖怪とかの認識ではない」

「へー! じゃああちらの妖怪ってのはどんなやつなんすか?」

「うーん。感覚的には同じだと思うけど、得体の知れないものを指すのかな。まとめて鬼って呼ばれるけど人のような姿、頭と手と足とがある。そして何かをしゃべる、歩くようなもの。そいつらがたとえば何もないところから火を出したり、風を操ったり、雷を落としたり、そういう変なことをする。悪さをする」


「なんか説明聞くと、姫様や曼くんのことみたいですね」

「そうね、見方によってはそうだと思う」

「え? そうなんすか?」

「そうなのよ。結局のところ、いいものは守ってくれる精霊様、神様と呼ばれて、悪いことをするのは鬼、妖もの。それくらいの認識」

「なるほどじゃあ見方によってはどちらにもなってしまうのか」

「そうそう、だからある地域では神様として名前がついていても、違う地域では鬼として恐れられてるかもしれない」

「へー。それはなんだかこちらの神話や昔話の解釈なんかと似たところがありますね」


「そうね。でもこちらでは空想とされてしまう、妖怪とか精霊みたいなものとかがいるのが当たり前なんだよ、あっちはね。それがこっちと違うところかなぁ」


「前に騒ぎになった綿鳥。あれは妖怪とか、妖と言われてるやつだよ」

「あれっすね! 見えないやつ」

「そう、『視えない』のよ。あちらでも『視える』と『視えない』はあるの」

「所謂、霊視とか、見鬼ってやつっすね」

「そう。こちらの世界のように、信じる信じないお好きにどうぞっていう世の中ではないからね。妖怪、妖ものによる害というか、痕跡がちゃんとあるというか。まあほとんどの人があると知っている感じ」

「ほとんどの人は見える? やっぱりこっちと同じくらい、ほとんどの人が見えない?」


「こっちよりは全然多いと思う。こっちの幽霊や妖怪が本当だったのかどうかはわからないけれど、あちらでは事実だから。単純に世の中の違いはあるんじゃない? 視えない、けど聞こえる、とか感じるっていうのがあるから、こちらよりは多いと思う」

「へー、いいな。俺も見てみたいなー」


「そうね、私の力がちゃんと戻って、4人の式神が揃えば視ることができるようにしてあげられるよ」

「そんなことできるんすか!」

「できる。そういう術を使えば。あとは一度瀕死になるとかでもいいんじゃない?」

「……死ぬとあの世に行って見えるようになるんすかね」


 少し怖くなってきたのか、明らかに声のトーンが低く、小さくなった黒井である。


「まあそういうことかな。死に近づくと視えるってのは本当よ」

「そうなんすね、ちょっと話題かえましょか。死にたくないので」

「そうね。じゃあ今日の報告書……」



「あちらの世界の人種について! 教えてください!」


 話が戻るのかと思いきや、また違う方にいってしまった。黒井あるあるだな。


「人種ね、えっとどういうことが聞きたいの?」

「エルフはいますか?」


「あぁ、そういう……」

「いや、そんな顔しないで! そんな感じで別の種族はいるんすか?」


「……そうね、例えば鉄を見たらわかるけど、犬神のー族っていうものがあるわけよ」

 黒井は『それが何か』と言わんばかりの疑うような顔つきである。


「鉄くん? は人ですよね? いわゆる苗字が犬神って訳ではないんです?」


「そうではないんだ、うーん。いわゆる種族、とかの話かな。もともとは狼、大神様にまつわる神様だったらしいんだけど、そこから産まれた生き物とかなんとか。私もその辺は詳しくは知らない。もしかしたら親父様とか……あ、鉄のお父さんね、それか私を育ててくれた森の長老様とかに聞けばわかるもしれない。まあ鉄はまだ未熟だから、犬神の姿、いわゆる狼の姿に変化することはできないんだけど、そういうことができる一族。見たいならお兄さんの方ができるはずよ」


「変身、すか?」



「まあそうかな。あれ? この話したことない?」


 黒井は急に目をキラキラ輝かせて、子どものように嬉しそうな顔をした。


「知らない! 何それもっと早く教えてよーもう! すごい気になる!」

「えっと、いろいろな事情から鉄は変身できないので、あまり突っ込まない方がいいと思うけど。まあそんなに気になるなら話すけど、姿形はこちらでいう狼男ではないかな。えっと、フェンリル? かな?」


「おお! 理解理解」


「本当は親父様に会えれば、もっといろんなことがわかるかもしれないと思うけど。親父様は本当に強い方で、あの時代で名前を知らない人はいないほどだったしね。でもまぁ今はいないというか亡くなっているからね。まあこちらには鈿がいるから。気になるならそっちから攻めるのはありだと思うよ」


「はあ。早く会いたいっすね。お兄さん」

「まだ会えないの?」


 あちらの私と、こちらの私、だんだんと境界がなくなってきている。そしてこちらとあちらの世界の状況も。

 鈿にも早くあって、いろいろ話を聞きたいところなのだが。


「申請はしてますよ。姫様の名前でというか、姫様を連れて行くって書類ですけどね。許可でないんす」


「そっか…」




 何事もうまくいく事ばかりではない。

 私の記憶も夢で見たようなたくさんの思い出を見ることができなくなった。いろんな年頃の記憶が物語のように夢で見えたのに。今はもう、本当に私の記憶として覚えていることは分かる、そのような感じになっている。忘れてしまっていることはよく考えて探さなきゃいけないし、何かの拍子に思い出すまで出てこないのかもしれない。


 この体も記憶も、なんだかうまくいくようでいかないことも多い。







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