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蛇と鬼


  血のついた太刀を持った男がいた。


 まだ幼さの残る顔はやはり血にまみれており、鋭く光る眼がぎらぎらと怪しく、その男を不気味に見せていた。


「これで片付いた」

 男は太刀についた血を自分の着ている血まみれの服でぬぐい、地面に突き立てた。

 あたりは死体ばかりだった。20人ほどだろうか、皆男で、盗賊か野党かと言った風体であった。

 近くに立っているのは、ひょろひょろとした、男か女か区別がつかない者が1人。それ以外は皆地面に転がっていた。



「兄貴、こいつらみんな死んでんのかい?」

「当たり前だろう。俺が切ったんだ、生きてるわけはねえ」

「そうかい。じゃ俺らはもう自由だ」

「ああ、これからは俺が自分で決める」

「やったな、兄貴」

「蛇、金目のもの拾って行くぞ。こんなところさっさと出ていこう」

「あいあいさ」

 

 2人は刀や金目のものを探しだし、汚れが少ない服を剥ぎ取って着替えると、さっさとその場を後にした。









 どこにでもある沢の近くの集落に、一軒の茶屋があった。

 そこにはいつもよりたくさんの人が集まり、皆で何かを話していた。



「聞いたかい? あのオンボロ寺に巣食っていた盗賊たちが皆殺しだってよ」

「聞いたよ、そりゃもうすごい有様だって」

「鬼に喰われたって噂だろう?」

「ばちが当たったんだ」

「女子供はさらって売ってたんだろう」

「いやいや皆なぶり殺しだって聞いよ」

「とことん悪いやつだったんだろうね」


 老若男女問わず、皆その話だった。

 1日ほど歩く距離のあるさびれた寺であった、野党の皆殺しの話だった。

 そこには2人の若い男もいて、静かに団子を食っていた。

「いやー、あれから結構経つっていうのに。まだこんなに話題になってるなんてね、すごいね」

「けっ、あの後だって、たくさん人殺しがあったってのにな。あの寺の話ばかりだな」

「兄貴は喧嘩っぱやいからな、全く」

「うるせえな、誰のおかげでメシ食ってやがんだよ」

「そりゃあもちろん、兄貴だよ」



 2人は団子を食べ終えて、そのまま茶屋を出る。

「ちょいとあんたたち! お勘定!」

 丸々とした女将が慌てて飛び出してきて、男たちに飛びかかる。


「ばあちゃんやめときな。兄貴機嫌悪いから」

 ひょろひょろの男が兄貴と呼ばれた男から女将をひっぺがし、手を振って先に出て行く。

「ちょっとなんなんだい!」

 兄貴は一瞬で懐にあった短刀を抜き、女将の顔に突きつけた。


「ばあさん、あの寺の奴らみてえに皆殺しになりたくなきゃあ、大人しく奢りにしといてくれよ」

 女将は一瞬で真っ青になり、そのまま腰を抜かしてへたり込んだ。

 あたりは静まり返り、誰もがそちらへ視線を向けた。その様子に機嫌をよくした兄貴は、刀をしまった。

「じゃあな、俺の顔忘れんなよ。またきてやるから」


 ーーまさか、あいつらが鬼って言われてる人殺しかーー


 その場にいた誰もが心の中で浮かべた。

 そして、逆らったら殺される、そう感じさせる圧迫感。

 兄貴と呼ばれていた男は満足した、景気のいい笑顔を残して、にこやかにさって行った。

 恐ろしさを含んだ笑みだった。

 誰もが恐怖し、息をするのを忘れた。


 ひょろひょろの男が女か分からない風貌の男と、長い長髪をひとつに括った、一見優しい顔の男の2人組。

 蛇と鬼という名の人殺しとして、この2人には逆らうべからずという噂が広まるまでそう時間はかからなかった。








 2人の男は、しばらく旅をしていた。

 それというのも、好き勝手大暴れしすぎたせいだ。行く場所行く場所で人々が逃げたし、何事もうまくいかなくなっていたからだった。少し離れた場所へ行けば、自分たちを知っているものはいるまいと、旅に出た。

 しかしながら、出た方向がよくなかったと後悔した。

 あたりには集落がなく、食い物がない。

 空腹だった。

 2人が目指したのは、帰らずの森という不思議な場所。

 そのあたりに入った人間は消えてしまう。

 近くを通ると、誰もいないのに気配がする、声が聞こえる。

 一年中、季節乱れた花が咲く。珍しくとも、刈り取ったものはたちまち死んでしまう。

 などと、たくさんの逸話がある森だった。

 怖いもの知らずで、食うに困った2人が他人の入らぬなら食い物に溢れた森だと決めつけ、歩き続けた。


「兄貴、いったいいつになったら帰らずの森ってところになるんだい」

「俺に聞いたって分かんねえよ、さっきから同じ社にばっかり戻っちまう。訳がわからねえ」

 2人は小さな社を発見し、そこを起点に四方へ歩いたが、やはり同じ社に戻ってきていた。

 男らと同じくらいの背丈の小さな社だった。

 かれこれ4度ほど、これをやっている。

 2人はとりあえずと、社の前に座り込みひと休みと決めた。




「いったいいつまで歩いたらいいんだい」

「知らねぇって」

「そうさね、精霊たちが飽きるまでかな」

「「精霊?」」

 声をそろえて、顔を見合わせた。


「誰の声だ?」

「俺じゃないやい」

 お互いの後ろをそっと覗き込んでみた。

 誰もいない。

 ではいったいどこから声がする。

「おやおや、驚きすぎだね」

 また声が聞こえた。

 2人はばっと、自分たちがいた後ろにある社を振り返る。



「これだな」

「これだね」




 座ったままの2人の頭の上と少しの高さしかない小さな社。小さな屋根に、とってつけた程度の戸がはまっていて、開けたら壊れてしまいそうだ。

「中になんかいんのか」

「こんなちっちゃいのに入らないでしょ」

「何かに化かされてんのか」

「兄貴は馬鹿だから」

「いや俺は馬鹿だけどよ、化かされねえじしんはあるぜ」

 2人は真剣に社を観察するが、中に何かがいる様子はない。

「2人とも、私に化かされたのよ」

 社の後ろから、ちょうど隠れるくらいの幼子が出てきた。

「なんだお前、ガキじゃねえか」

「兄貴、こんなの出てちゃってどうしよう」

 十になるかならないかくらいの、小綺麗な着物をきた娘だった。

「ひょろひょろした蛇みたいな男と、頭の悪そうな口の悪い男ね」

 娘が2人に向かって言った。

「なんだこいつ」

「兄貴に向かってそんなこと言ったらまずいぞ、謝っとけ」

「謝りませんよ、私の方が強いから」

「なんだって」

 鬼は気が短いのか、娘の一言に挑発され、懐の短刀に手をかけた。

 蛇は薄ら笑いを浮かべ、面白そうに見ている。

「お前、俺は悪い男だぞ」

 娘を小馬鹿にした顔をして、懐の短刀をちらつかせた。



 ーーこのくらいの小娘なら、刀を見たら怖気つくだろう。


「あら、そんなものでは無理よ」

 娘は刀を見ても顔色を変えず、しゃくしゃくと佇んでいた。

 2人は顔を見合わせて大笑いした。

「大した度胸だね」

「俺の刀はおどしじゃねえぞ」

 鬼は一瞬の間で刀を抜きとり、娘の眼前まで突き出した。


 ーーキン


 凄まじい高音が響き、耳が酷く痛む。脈を打つような衝撃に2人は咄嗟に耳を塞ぐ。

「はい、終わりね」

 娘は口元だけ笑っている。

 鬼はふと気がついた時には、手にあったはずの刀はなくなっており、耳を塞いでいたことに気付く。


 ーー刀は消えた、そして娘には傷ひとつない。

「どうなってる」

「私には触れないのよ、もうちょっと綺麗になってからにして頂戴」

 娘はふっと笑った。

 空を指でなぞって、すらすらと何かを書いた。何かを撫でるようだ。

「何してる」

「お嬢ちゃん、頭おかしいんじゃないの?」

 ーーまた何かが起きる。

 2人は同じことを考えた。

 今度は何がきてもよいと身構えて、娘の様子を伺った。


 ーー バシャ


 突然頭の上から水が降ってきた。

 目の前の娘に注視していた2人は真上のことには気が回っていなかった。

 無防備にも大量の水をかぶった。

 滝が流れるごとき圧がかかり、身体を起こしていられずに倒れた。

 いつまでも止むことのない雨は、2人の体を水の中に閉じ込める。

 それは次第に球の塊となる。

 ーー息ができねえ、。

 水の中に閉じ込められ、どれほど経ったか。

 蛇は意識を失っているようで、水に浮かんでいるのか沈んでいるのか。

 うまく身動きが取れず、鬼も次第に意識が遠のいく。




 最後に見たのは、なんとも言えぬ悲しみの顔をした娘の顔だった。





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