森の中の秘密基地
「嘘でしょ」
私たちがバスを降りると、そこは山奥のどこかで、目の前にあったのは古い木造の学校のような建物だった。
「いやー、これが秘密基地感あっていいんすよね」
黒井さんが良い不動産の斡旋のように紹介するが、見た目は完全にお化け屋敷である。
「ささ、みなさんご案内ですよー。部屋数は山ほどありますんで。好きな部屋をどうぞ」
相変わらずふらふらしている私の足ではうまく歩けず、まだ曼ちゃんに抱っこされたままの私である。
昇降口から入ると、外から見たより幾分かは綺麗な内装だった。ところどころ柱に傷みがあるものの、人が使っている感じでそれなりに住めそうな? 場所だった。
鉄はそそくさどこかへ歩いて行ってしまい、すぐに姿が見えなくなった。
「まずは簡単に紹介しましょう」
黒井さんがそう言ってどこからかランタンを取り出した。
「まずこちらの建物ですが、築100年以上の壊れかけの廃学校となっております。この度私たちの拠点として、使用するにあたって、整備は完全セルフサービスとなっております。
そのためご近所のシニアに大変お世話になっております。時々力仕事のお願いがきたりしますのでその時はご協力お願いいたします。
こちらの拠点ですが、僕たちだけの住まいとなっておりまして、研究チームとは異なりまして予算がほぼありません。なぜかというと、研究チームがお金を使い過ぎているからですが、まあ仕方ないので諦めました。
今の所、仕事としては心霊相談しかないです。あとは研究だけなので収入としてはお国様にいただいている予算のみ! はい大変。
あとはまあ、鉄くんが普通の家には住めない点があるので、ここに隠れ住んでます。何せ嗅覚、聴覚が鋭いですから、人が多いところや匂いの問題がありましてね。こういうところしか選択できませんでした。
一応電気は通ってますが、1階の室内のみですね。廊下は暗いですよ。森の中の中なんでね。昼間でも暗いですから。なので、自室にするなら1階がオススメ。水は残念ながら配管が壊れてるので、山の湧水です。でもねこのお水はなんと鉄くんでも美味しいらしいので、なんとまあ素敵なお水なんですね! 基本的に水汲みは鉄くんのお仕事です。
じゃ1階のみツアーです。歩きますよー。
入って左手からですね!
こちらは調理室があります! その向こうに理科室みたいな部屋が2個あります。あ、もう進まないでね! こっちは終わり。
はい、ではすぐUターンして右手です!
あ、ここが職員室ですね。ここは僕が使っています、あと荷物置き場。隣というか繋がって校長室みたいなのがあって、そこは鉄くんの部屋になってます。
はい、よく分からないけど小さい部屋が2個あって次は保健室があって、隣はまた小さい部屋が2個あります。
ここまでで端っこまできましたよー。
ここに階段ありますね、あの横のところトイレです。一応水流れますが、飲料にはダメですよ。はい! 終了!
2階は教室がいっぱいです!
あえての上を希望でしたら見てきて大丈夫ですよー。ちなみに掃除はどの部屋もしていないですね」
とても簡単なツアーが終了した。
職員室は普通の感じて、テーブルが沢山見えた。校長室は閉められているので見えなかった。
他の教室なのかよく分からない部屋はテーブル椅子などは置きっ放しだから、とりあえずは生活できそうだ。細かい荷物は何もなさそうだが、どうするつもりなのだろう。
ベッドがある保健室が一応住めそうなスペースに見えた。
「はいでは備品を探しましょう。職員室にいっぱいありますから、好きなのをどうぞ」
今度は職員室に連れて行かれ、とりあえず綺麗そうなソファーと、山積みの袋やダンボールがあった。開けてみると服やら靴が沢山入っている。
その向こうにも何が入っているか分からない箱たちが沢山積まれている。
「姫様の家の荷物はあと数分で到着です。全て運び込まれますのでご安心ください」
「え? 私の部屋は、部屋ごと引越し?」
「そうですね! もちろん設置まで大丈夫ですよ!」
とりあえず、今日寝る場所に困ることはなさそうだ。
「では、少し事務仕事や会議があるので少し離れます。ちょっと部屋作りの時間にでも充ててください」
黒井さんはそう言って颯爽と出ていった。
取り残された私と曼ちゃんは、2人でお互いの顔を見て目をぱちぱちさせていた。
「俺はどうしたらいいんだ、これ」
「そうだよね。私と同じ部屋の方が安心する?」
「同じ部屋の方がいい。というかよくわからん」
「うーん、そうだよね。とりあえずは布団は大丈夫そうだった。これは曼ちゃんの服を探せばいいのか……」
大量にある服たちから着られる服を探すしかないかな。さすが曼ちゃんもこのままの服装では外を歩くのに目立ちすぎる。
これを見て、鉄の服装があれだった理由がわかった。
私たちは何とか着れる服を探し、到着した荷物運び隊に手伝ってもらい掃除。私の部屋のものを整理しているうちにあっという間に日が暮れた。
「いい部屋になったじゃないですか!」
黒井さんが戻ってきたのは多分7時くらいお腹が減った時間の頃。部屋の配置がだいたい完了して、一息ついた後だった。
部屋はなんとか明るいくらいの光量で、お化け屋敷ほどではないが、古めの旅館くらいのいい雰囲気だった。
電波がないのか私のスマホはエラーになったままだった。朝の雷の時からずっとおかしいまま壊れたのかもしれない。
私と曼ちゃんは奥側の小さい部屋2つを使うことにした。こちらの2部屋は室内の奥側、窓際に通路があって、つながっていた。部屋通しの行き来が可能だったので使いやすいと判断した。1人ずつの部屋にしようとしたのだが、どうしても曼ちゃんが何事も一緒じゃないと嫌なようで、リビングと寝室の2部屋のような使い方になった。
狭いとは言っても普通の教室よりはという意味合いで、1人部屋としては充分なサイズだ。おそらく10畳よりはあるだろう、私の住んでいた部屋よりは広い。
「あれ? これは僕の使っていたソファーでは……」
「職員室にある備品はお好きにということでしたので、私たちが案内の時に座らせてもらったソファーはもちろん運ばせていただきました」
私は当然ですという顔で、黒井さんの少し悲しそうな顔に対向した。
そう、職員室にあった居心地の良いソファーは移動してもらった。
リビングの部屋として、私の部屋のテーブルと椅子、もともとあった職員用のテーブル2台と旧式のテレビ。そしてソファーと、備品のダンボールが積まれていた中にあったローテーブル。立派なリビングになっている。
寝室も運ばれた私のベット、もともとあった机と椅子が3個、保健室にあったベッドをひとつ曼ちゃん用に運んである。後のいらないものはスペースの都合で2階の教室に詰め込んだ。
私の着替えなどが入っていた備え付けのクローゼットは流石に持ち運べないので、職員室にあった綺麗な収納棚を沢山運んでもらった。中にあった荷物はそのまま職員室に置いてきた。
こちらの部屋もかなり整っていて、充分生活可能だろう。
「じゃ、飯にしましょう。ご近所さんからもらったお野菜がキッチンにあるんで」
少ししょぼくれた黒井さんがとぼとぼ歩いて部屋を移動した。私たちもついて行く。
「じゃあ職員室の外のキッチンを紹介します」
職員室に入ると、先ほどのソファーのあった場所を通過して、そのまままっすぐ窓際に向かった。一番端の掃き出し窓から外へ出ると、外にはしっかりと屋根があった。ここへ来た時、外側からは壁のような仕切りがあって見えないようになっていたのだろう。隠されたキャンプ場のようになっていて、新しめのテーブルセットがある。
奥にはしっかりしたかまどのような、おそらく火の設備もあるようだ。
「ここでご飯作って食べる感じですか?」
「はい、荷物は全部この辺にあるので。あとガスは少ししかないので、そのためにもこのプチバーベキュースペースがあります。木は無限にありますから! 薪には困りませんよ!」
黒井さんはもういつもの調子で話していた。
そしてあとはお願いしますと、頭を下げた。
ご飯はどうやら私が作るらしい。曼ちゃんと少しゆっくりする時間があったからか、私はとりあえず1人で歩いても平気なくらいには元気になっていた。
とりあえず早くご飯の支度しよう。こんな山奥にはコンビニもレストランはないだろう、ご飯がないのは困る。
「まあ、とりあえずは了解です。ご飯係ですね」
黒井さんはニコッとすると、じゃあと職員室に戻っていく。
私はとりあえず、何かあるのかその辺にある袋やらダンボールを確認する。曼ちゃんはよくわからないので、とりあえず私についてくる。
「で、どういうこと?」
曼ちゃんはもう黒井さんの話をとりあえず聞き流し私に確認してくる。でもそれが正解かもしれない、話が二転三転するから私でも理解に時間がかかる。
「あー、まあやりながら話しましょ」
なんだかハイテクな最新施設での生活を想定していたので拍子抜けだが、なんだかこれはこれで楽しそうだ。私の夢で見ていたあちらの世界に少し似ているかもしれない。
曼ちゃんには少しわからないこともあるのだろうけど、とりあえず一緒にいたらなんとかなりそうだ。
少しずつ準備をしていると、ひょこっと黒井さんが顔を出した。
「まあ今日は色々ありましたし、ゆっくりご飯食って寝ましょう! お風呂というほどではないですが、バーベキュースペースの横にバスタブがあります。ちゃんと屋根と壁はありますから! ご心配なく」
「今日はこれ終わったらお風呂で寝るってことですね」
「その通り!」
こうしてなんだかんだの、よくわからない事に巻き込まれながらの新しい生活がスタートした。