表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人鬼〜JINKI〜 時空の守護者たち  作者: 志摩
2、ふたつの世界が重なる時
15/26

見つからない刀と話の長い男




「腹減った!」


 開口一番、曼ちゃんはそう言って椅子にドンと腰をおろした。


 ようやく幼稚園バスに乗って、私たちは再出発。なんだかんだで色々あって疲れたのは私だけではないだろう。



「あとはもう事後処理ですから僕たちは引き上げますね。この状況をどう説明するかは後日、うちとそちらの上が決めますので、よろしくお願いします。バレないうちにいなくなります」


 黒井さんはそう言うと、本当にそそくさ逃げ出した。鉄もその後を追いかけていってしまったので、私と曼ちゃんも急いで追いかけた。

 すると黒井さんは先ほどまで乗っていた幼稚園バスを通り過ぎて、急に反対車線に入って行く。するとそこには新しい幼稚園バスが待機していたのだった。



「そうだよね。もうお昼過ぎちゃったし。どれもお腹すいたよー」

 黒井さんが先ほど荷物を取り出した椅子の反対側の椅子を空けると、何やら食器や調理器具を出し始めた。

 バスは迂回しながら進むことになってしまい後1時間ほどは時間があるらしい



「ここでご飯作るの?」

「そうすよー、もう鉄くんの好き嫌い激しすぎて外でご飯食えないんすよー」

 鉄がそんなに好き嫌いあるなんて、夢で見た覚えがない。一緒にご飯を食べていた気がする。

 私たちは近くの椅子で3人座って、とりあえず黒井さんを見ながら待っていた。


「臭くて食えん、こっちの料理は」

「それ、マジでずっと言ってて。食材から匂い嗅いで平気なものしか使えないのまじ辛いっす」

「俺はもっと肉が食いたい」

「いや、超高級肉しか食わないじゃないっすか! そんなにお金ないですよーまったく。まあ野菜は近所のおじいちゃんのが食べられるから良かったけど」



 もう鉄は何も言わない。多分会話が面倒になったのだろう。

 不思議なことに水のタンクやガスコンロ、炊飯器まで出てきて、ここが一端の厨房のようにも見える。

「私も手伝いますよ。ご飯はいつも作ってるから」

「よかった! 俺切って塩振るくらいしかできないから。嬉しいです!」

 黒井さんはどこからかお野菜のダンボールを持ってきて私に見せた。

「今日はこれだけ。お米は炊けるから、あと何か作って欲しいっす」

 にんじん、大根、なす、きゅうりしかない。これで何を作れというのか。




「味噌、塩はあります?」

「そのくらいなら! 後梅干しと鰹節はあるよ! いつもおにぎり作るから」

「じゃあ、味噌汁とおにぎりですね」

 私は黒井さんの方へ向かって一緒に調理を始める。黒井さんもお米を炊飯器にいれて水を入れた、どうやら洗わないやつらしい。

 鉄と曼ちゃんは全く動く気配はない。これはあちらにいる時と変わらないと思う。

「お前、さっきはなんで動かなかったんだよ」

 曼ちゃんが鉄に問いかけた。

 鉄はなぜか答えない。

「お前、刀はどうしたよ」

「……葵毘きびはない。こっちに来た時に消えた」

「消えた?」

「そうだ。俺はどうやってこっちにきたのか分からねえ。覚えてねぇ」

 鉄は黒井さんの方へあご突き出し、説明はそっちにとでもいうような仕草をした。

 私が黒井さんの方を見ると、なぜ口を尖らせていた。

「その話はまだよく分からないんすよね……」

 黒井さんは炊飯ボタンを押すと、やることがなくなったのでそのまま後ろの椅子へ座り、少し長いですが話しましょうと、前置きをして話し始めた。







「えっとね……。


 まずは最初からということで。

 鉄くんの発見のところからかな?

 僕は鉄くんの発見された時の事情聴取を担当していたんですよ。

 すごいでしょ? もうかれこれ長い付き合いなのよ。



 鉄くんは、どこからか海岸に流れ着いたみたいで、近くに住んでいる人が死体だと思って通報して発見されました。


 それがもう大騒ぎで、真っ白な髪の毛なのに少年のような顔つきでしょ? それでいて服装はコスプレイヤーなんだから目立つのなんのって。どの国なのかとか、何もかも不明で意識もないわけだから。


 えっとねー。


 まだまだ研究不足というか、こちらでも体制が整っていなかったので、とりあえずは警察病院に搬送されて状況確認でたくさんの話をしました。

 それでこちらとは違う世界があることがわかって、こちらの世界でも何らかの対策をしなくちゃという動きになりました。

 そこまでにものすごい時間もかかったし、事件起きたしで、本当にもうおったまげですよ。ただのオタクなお巡りさんだったのに、死体だと思ったコスプレイヤーが生きてたってところから、人生が一変しましたね。


 そうそう!


 鉄くんが色々話ができる人だったことがあって、あちらにいる人たちのことも教えてもらったんすけど、そこでお兄さんの話もあってですね。

 

 それでそれより前に大暴れして捕まっていた人がどうやら鈿くんじゃないかと。鉄くんと確認しまして、本物の鈿くん、まあ兄弟だと分かって、また色々大変になりました。


 我々の知らないうちにもっとたくさんの人、いや人だけじゃないと思いますが、その謎なものが流れてきているってことですから。まあ当時はそこまでいろんな事象が見られていたわけではないですが、やはり少しずつおかしなことは増えていきました。


 去年からはNEVERとして組織されて、ようやく少しずつ活動をしているわけですが、まあ圧倒的人手不足なので。業務委託とか派遣とか? 色々ありますが秘密が多い職場なので、その辺がまた厳しいですね。


 え? その話は今関係ないって?


 ああー、刀の話でしたね!


 えっと、刀はね、なかったんですよ。

 鉄くんが見つかった時にはなくて、話ができるようになって事情を聞いて、発覚したんす。

 刀があったはずだ! と。

 一応ね、発見された付近の海は調べたのですがね。そんで、骨董品屋とか、フリマサイトとかも探したけどね。それがまあ見つからないのなんのって。

 まあ結局その刀は今でも見つかってはいないんです。

 

 でもね、不思議な話、刀を持っているのは曼くんだけですね。


 君はここにきた時に意識もあったし、雷も使っていたし。

 あ、あれね。

 鈿くんもね刀ないですよ。それもあって当初大暴れ。鉄くんの見つかったあたりと同じあたりで発見されています。


 彼は確か、海沿いの道路に転がっていたとかでやはり交通事故かと思って通報。

 話があまりできず錯乱状態というか臨戦体制で、事故のせいでおかしくなったとの判断をされてまあ厳重管理状態。それでも死人が出るほど暴れはしませんでしたね。


 あんまり会話できるタイプじゃないみたいだし、今でも収容されたまま。まだ暴れる時もあるし、どうしようもなくてね。鉄くんも仲悪いようで喧嘩になるからもうねカオスですよ。


 あ、まあつまり、刀は持っていなかったんですよ。そんで今もないですね」



 ーーピーピーピー


 タイミングよく、炊飯器が炊き上がりを告げる音を鳴らした。


「黒井さんはね、話すのが下手なんですね。あのねーとかが長すぎます。ご飯炊けましたよ、もうほんとに長すぎて」

「いや、米炊けるのが早いんすよ! これ15分で炊けるのよ? 僕の子どもの頃なんて30分くらいかかってたんだよ? 今はすごいよねー」

 そういうところだ、話が長くなる原因は。

 味噌汁もできたし、茶碗もあるから、おにぎりにしないでもうさっさと食べよう。

 とりあえずご飯に梅干しを乗せてみんなで食べ始めた。




「俺が分かったのは、刀がないって話だけなんだが」

 食べながら、曼ちゃんが私に言ってきた。

「刀があるのは曼ちゃんだけだって、鉄も鈿もない。どうしてだろうね」

 鈿は相当幼い頃から刀を振っていた気がするが、どうしてないのだろう。こちらへ来ると無くしてしまうなら、曼ちゃんが持っているのはおかしいことになる。

「わかんねーよ。俺からしちゃ曼が刀持ってたことの方がおかしい。んでお前もおかしい」

 鉄が私の方を箸を持ったまま指差しして言った。

「私も自分の状況がよく分からないよ」

 なんだか嬉しい気持ちもあるし、怖い気持ちもあるし、これからどうなるのかという不安もある。


「すぐには分からないことだらけなんすよ。まあ今回は曼くんと姫様というふたつのピースがあることによって、また何かしらの発見と、新しい謎がでるでしょうから。少しずつ解決しないとですね」

 

 黒井さんが不思議と真面目なことを言った。なんだかみんな静かになった。



「腹いっぱいだな!」

 鉄がそういう頃には、バスはどこかに到着したようだった。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ