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人鬼〜JINKI〜 時空の守護者たち  作者: 志摩
2、ふたつの世界が重なる時
13/27

森の姫巫女、花姫様と二葉



「紅蓮!」



 私は咄嗟に手を前に出して、風を起そうとしたがうんともすんとも言わず、何も起きない。

「なんで風の子たち、あれ……」

 ここは家だ、草原ではないし、外で昼寝でもない。どうしてか眠っていたのだろう。力を使いすぎるといつもこれだ。寝ぼけていたのか、今見たのは夢だ、全て今起きた出来事では無い。


 あれは遠い昔の記憶のはずだ、夢だからいろんな時間を転々とした覚えがある。幼い頃、親父様のこと、まだ六花に会ったばかりの時。そういえば六花もまだなんの儀式も行えなかった頃の、巫女見習いの時だ。


「寝ぼけてんのか?」

 曼ちゃんがすぐ傍にいたようで声をかけてきた。いつもと同じように手を握っていたようだ。良かった、変わらず側にいてくれて。

 私は体を起こし背伸びをして、曼ちゃんの手を離し、隣に座った。

「ああ、そうかもしれない。力を使いすぎたのか。側にいてくれてありがとう。なんだか懐かしい夢を見たよ。親父様が生きていた時の夢だ。いつも話していただろう? 鈿と鉄の親父様だ」

「ん? お前全部思い出したのか?」

 曼ちゃんの顔が頬の近くまで来て、なんだか顔を覗き込んでくる。どうしたんだ、そんなに長い時間眠っていたのだろうか。それとも今の夢は何かの警告だったのだろうか。そうだとしたらすぐに夢の内容を照らし合わせないと。

「私は何かまじないの途中だったのか? 何を探していた? 思い出した? 何を?」

 今の夢にこれから起こることと関係のあることがあるかもしれない、眠る前の私は一体何をしようとしていたのだ。

「はいー! 僕ですー! ちょっと聞かせて! その親父様の話! 聞いたことないです!」

 黒い服の男が割り込んできた。そういえばこんな男を見た、確か名前は黒井……。



「あ、黒井さん! あれ、そういえばなんで私ベッドに」


 頭痛が酷くて、なんだか目の前が暗くなってしまった。そうかさっきのは夢だったのか、色々見た気がする。そういえばどうして私はこんなことに、そういえばさっきも何かを考え込んでいたような。

「おや? これは二葉さんの方だね。さっきのは完全にあちらの姫様だったように見えたけど」

「だろうな、あれがいつも通りな感じだ。今は少し様子が違う」

「え? 私、変だったよね? やっぱり」

 今は私があちらの夢を見ていた二葉であると思うが、ここ最近夢を見すぎていて夢と現実の感覚が曖昧になっている気がしていた。それが今日になって夢は現実になってしまっていて、目の前に曼ちゃんがいる。私があちらの私として別なのか同じなのか、それとも混ざったものなのかも謎だ。


「何の夢を見たんだよ、結局」

 曼ちゃんが問いかけた。

 私もハッとして、忘れないうちにメモを残さないと。ささっといつものメモを取り出した。

 でもーー『親父様の最後の時のことは誰にも話してはならない』ーーそれだけは知っている。




「今見たのは、私が子どもの時、川原で親父様にはじめて会った時の事。その時、鈿が同じくらいの歳だったよ。それとは別に、六花と鉄が来た時に、鈿が来て大喧嘩した時の事」

 知ってる? と曼ちゃんに問いかけるも、首を捻っている。

「俺と会う前の子どもの頃の話は知らねえ。でもそんな話をしてた気がするな。親父様はお前にとっても本当の父であり家族だ、みてえな事何度も言ってた。鉄と鈿の喧嘩は多過ぎてわかんねえ」

 私は簡単にメモしていると、黒井さんの視線が気になった。

「それっていつも書いてるの? 夢日記? 全然恥ずかしくないって感じなら見せて欲しいんだけど」

 黒井さんは多分目を輝かせている、気がする。実際の目はどんなかよく見えないけど。

「この日記は本当に夢の内容しか書いてないから、別に見ても大丈夫ですよ」

 この日記は大丈夫、1番最初の頃の夢日記は落書き帳にメモしていたころのもの。小学生の頃のものかな、それは落書きも恥ずかしい思い出も書いてあるから、別の夢日記もあるのは内緒にしておこう。みんなに見られるのははちょっと困る。

 これは大切そうなところをまとめているものだから、お互いの知っていることを擦り合わせるのにちょうどいいかもしれない。

「やった! 後でかしてね! それでは移動しましょう。そろそろ迎えが来ますし」

「迎え?」

 黒井さんのポケットから、最新式の通信端末が出てきた。あれってまだ販売されていない、もう少し未来にできるはずの道具としてネットに流れていたやつに似ている。実際はできているのに、流通してない技術というものがあるということなんだな。

「君がだいたい2時間ほど眠っている間に、通信は回復しました。例の秘密組織に連絡が取れて、ここは移動することになりました」

「そうですか」

 ここへ移動する前に、そんな話をしていたような気がする。そういえば旅行の荷造りしろ的な話を聞いた。

「二葉さん、君はとりあえずもう学校に行けません。しばらくうち預かりで、インターンということにでもしましょう。お給料は出ますが、それ以外の費用も全部持ちで大丈夫。君思ったよりも苦労してるのね」

 私が眠っている間に色々と話が進んでいるようだ。そしていつの間にか私のことも調べられてる。どこまで知られたのか、何もかも調べられたのかな、なんだか怖いなこの組織。

「私に拒否権はないのでしょう? あちらの記憶しかない、何の力のない私は逆らえませんし。お願いするとしたら、曼ちゃんと一緒にいさせてほしいということくらいでしょうか」

 曼ちゃんの方を向くと、曼ちゃんも珍しく目を開けてしっかり話を聞いていた。

「俺も花と一緒ならいい。一緒なら、場所はどこでもかまわん」

「ではそうしましょう。さっき曼くんと少し話しましたが、曼くんはあちらと変わりなく力が使えるようです。何かあっても2人で一緒なら大丈夫でしょう」

「あの、何かあってもというのは?」

 秘密組織の内部で対立とか、実は何かやばいことをしてるとか、何かややこしい事情でもあるのだろうか。

「まあそれはおいおい。今はまず移動しましょう」

 黒井さんは立ち上がって、端末を取り出すと、画面を見てにこりとした。

「ちょうどいいっすね。いきましょう」

 黒井さんに言われるがまま、外に向かおうとする。しかしうまく足に力が入らず立ちあがろうとするのにそのまま座ってしまう。

 外に行きかけた曼ちゃんが、私に気がついて戻ってくる。

「仕方ねえな」

 見かねた曼ちゃんがお姫様抱っこしてくれた。

「ごめん、ありがとう」

 黒井さんが玄関の戸を開けておいてくれた。アパートのすぐ横に何故か幼稚園バスが停まっていた。

「これに乗りますよ」

 黒井さんがバスの真ん中にある自動ドアをコンコンと叩くと、ドアが開いて黒服の人が4人も出てきた。

「あとよろしくねー」

 黒井さんが軽くいうと、ペコリとして私の家の方へ行った。

「え? 何?」

「いや、俺にはわからん」

 私たちには状況がよくわからず、とりあえず玄関から出て少しのところに立ち止まったまま。いや抱っこされたままだ。

「君たちはこっちだよ、これに乗って」

 黒井さんがドアから顔を覗かせて、おいでと手を振っている。



「曼ちゃん、あの乗り物に乗るんだって」

「あそこから入るんだな?」

 曼ちゃんにどうにか伝えて、バスに乗りこんだ。さっき私の家に行った4人は戻ってこない。

 バスの中は少し不思議な作りだった。運転手のすぐ後ろ側には、何故か会議室のようになっていて、真ん中にテーブルがあり、それを囲むようにサイドに椅子があった。しかも何故かテーブルの下に人の足が見えている。誰か寝ているらしい。

 後ろ側半分は普通の路線バスと同じような座席が並んでいた。運転手は普通のサラリーマン風の男の人が乗っている。

 黒井さんが1番後ろの席に乗れというので、そこまで運んでもらって曼ちゃんと座った。黒井さんがその前の席に座る。

「んじゃ、よろしくー」

 ぷしゅと音がしてドアが閉まると、ゆっくりとバスが出発した。

「じゃあ、近くの拠点に行きますが、高速で2時間くらい。まあまあ時間あるので、それまでにいろんな話をしちゃいましょ」

 黒井さんがバスの窓にある降りるボタンを押すと、運転手の後ろ側から大きなスクリーンが出てきて、完全に会議室の見た目になった。



「ねえ、あれ足?」

 私はテーブルの下を指差した。

 曼ちゃんは特別驚いてもいなかった。

「あれは鉄だろ、そんな気配がする」

「お、流石っすね。鉄くーん、そろそろ起きてよー」

 曼ちゃんがすっと手を持ち上げて、親指と人差し指で輪っかを作った。

「起こしていいんだろ? んじゃいつもの」

 曼ちゃんが人差し指をちょんと弾くと、ピリッと火花のような電気が飛んだ。それは多分あの足に当たったのだと思う。小さすぎて途中からは見えなかった。

「ーーいってえ!」

 かばっと体を起こすのが見えた。あれは痛いぞ、絶対に頭をぶつけると全員が思っただろう。

 ーードン

「ーーっあー!」

 頭なのか、顔なのか、かなり痛い音を立てていた。何にせよぶつけたのも、電気も痛いと思う。

「あちゃー、でも起きたね」

 黒井さんが笑いを堪えながら、なんとかそれだけ口にした。

「痛えぞ! これ曼か姫のやつだろ! くっそ」

 鉄が足を左右に動かしながら芋虫のようにテーブルの下から出てきた。

 曼ちゃんまで、くつくつと笑っていた。

 赤い何かがもぞもぞ動いて足から出てくるなんて。なかなか見ることはない光景だ。

 這い出てきたと思ったら急にばんと立ち上がり、座席を見回してこちらを見つけたようだ。

 鉄は全身真っ赤だった。赤いパーカーを着ていて、キャップの上にフードを深く被った状態。赤いジャージのズボンで、何故か黒の地下足袋姿。何というかこちらの格好なのだが絶妙に目立つ感じだった。犬神特有の真っ白な髪は確かに目立ちそうだから、フードをかぶっているのはそれを隠すためだろうけど。

 何も喋らず歩いてくると、ドンと聞こえるように大袈裟に座った。黒井さんの席の通路を挟んだ隣の座席だ。

「全く俺はずっとここに閉じ込められてたってのに、なんて仕打ちだ。空から何か落ちたのはてめえだったのかよ、曼。姫はどこだよ? だいたい一緒だろ、お前ら」

「鉄、私ここ」

 後ろ側からそそっと言ってみる、鉄は驚いて後ろを振り返った。

「はあ? お前が姫? 何がどうなってんだよ」

 私の顔を見て、何だこいつって訴えるような目のまま。それもそうだろう、私はこっちとあっちでは見た目が違う、というか同一人物と言っていいのかあやしいところ。

「それがわからないから、これから相談しましょって事なんだ。あ、えっと二葉さんと姫様はどちらでも呼ぶべき?」

 急に黒井さんが私の方を向いた。

「あ、これから私と喋るやつ? じゃあ、この面子は頭弱いので、姫でお願いします。多分ややこしくなるから」

「あ、了解」

 頭弱いのでに2人とも何の反応もない、多分自分のことだと気がついていないのだろう。



「えっと、それじゃ何から話そうかな? まずはこの世界とあちらの世界の擦り合わせからかな? 鉄くんはもうこちらに来て長いけど、曼くんは初めてだからね、よく聞いていてほしいな。

 まあ君たちのいた世界とほぼ変わらない作りだね! 人が生活しているっていうところは変わんないね。君たちもご飯食べて寝て、ってしてたでしょ? それは一緒だね。鉄くんの話を聞く感じ、そちらの世界よりは道具が発達しているから少し違う様子に見えるけど、まあそんなに違わないと思ってね。でも1個だけ確実に違うこと、それは君たちの世界では実在している神様たちがいないこと。精霊やその他の種族? がいないこと鉄くんの犬神一族はもちろん、いろんな人達とかはないなー。そしてそれぞれに伴った超能力、えっと術かな? それが使えないっていうのが常識でした」



 黒井さん、説明が上手くないな。とてもわかりにくい、そして長いそう思っていると、最後に引っかかる言い方をした。

「……え? 常識でしたっていうのは?」

「それがですね、今この世界は変化している最中なんですよ。何が原因かというと、そちらの世界との境がなくなっているからというのがうちの推測。それによってできた穴からはぐれてきているのが君たちということ」

 この話を知っていそうな、いや、とりあえずは聞いていそうな鉄も、よく分からないのかあくびをしながら聞いている。曼ちゃんは目をつぶっているのでおそらく何もわかっていない。ということはこの2人は置いておいて、とりあえず私たちで何とかしないといけない。なんだか少しイラッときた、誰も彼もまともじゃないじゃないか。頭でぶつりと何かが切れた感じがした。


「つまり、2つの世界が繋がってきているということ。それによってあちらの世界のものがこちらに現れているってことでいい?」

「そうっす! いやー流石ですね! よくわかってくれました」


 黒井はパチパチと拍手をしている。

 多分この人は話すのか上手じゃない。

 どうしようか、話の擦り合わせができる気がしない。

 それに、話を聞いていると、どんどん顔がひきつっていきそうだ。


「私はあちらでひずみ、いわゆる空間の穴みたいなものを調べていたから、何となくわかるわ。爺様が見た夢と、私の見た夢、力あるものなら多少なり感じていたものもいたでしょう。あちらにも目に見える影響は出てきていたと思う。私はこちらの全てを見ることはできなかったし、それを見ていたのは六花だった。だからまずは六花も探さないといけないでしょうね。まあ少なからずここで過ごしてみて思うのはこちらの今起きている現象が、あちらでの出来事と繋がっていると判断した方がいいと思うわ。それに、もうこちらに3人がいるってことは、これから増えるかもしれないし、人以外も考えられると思うのだけど」


「その通りっす! きてますよ、それ以外のもの」

 黒井はもう話すのをやめて私の質問に答える体制になった。

 そうでしょ、と鉄の方を向くので、鉄が口を開いた。

「ああ。俺は今その掃除をやらされてる」

「掃除?」

「ああ、向こうでは当たり前だったろ。危ない奴はやるしかねえ」

 鉄が手を握って私に向かって殴る素振りをみせた。

「妖退治か、面倒なのがきてないといいんだけど。多分力の高いものほど、こちらにくる可能性が高いと思うのよね。そしてこちらとあちらの差がなくなると」

 私は大きくため息をついた、何度もこの手の依頼は受けてきたが、こちらの世界では対処が難しいだろう。

 人の多さもそうだが、なにより術を使うスペースが小さすぎる。問題は多いだろう。

「今の所、見てるのは雑魚ばっかりだな。向こうでは相手もしねえで放ってる奴らだよ。黒井は全部やれって言ってくるから、俺は毎日どっかに連れていかれる。それをやらねえと俺は家も飯もねえから従ってる」


「なるほどね、うまく使われているわけだ。まあ隠れているだけの可能性はあるわね。曼ちゃんがきたとこによって、あちらでどうなっているのかも怖いところだけど。私たちよりもっと強い何かが一緒に来てるかもしれないし、知らないうちに何かが起きている可能性もある」

「花、お前、紅蓮たちはどうした?」

「紅蓮? そういえば、紅蓮…」



 曼ちゃんに急に質問されて、私の頭の中が一瞬で真っ白になった。

 紅蓮、私のなんだっけ、知っているはずなのに。


「ごめんなさい、わかんなくなっちゃった」

 あれ、どうしてこんなにすらすら喋っていたんだっけ。いつの間にこんなにたくさんのことを知って、いや、今の私には分からない。


「おっと、姫タイム終了! 短い!」

「ああ? なんだそれ」

 鉄が突っ込んできた、いや私もよくわかっていないから、説明はできない。

「姫様は、こちらの世界の普通女子で、厳密には鉄くんと曼くんの知っている姫様とは別人です。が、おそらく記憶の共有? なのか、なんらかの状況であちらと繋がっているとのことで大丈夫ですか?」

 黒井さんが鬱陶しい身振り手振りをつけて私の方へ会話を投げてきた。やっぱりこの人苦手だな。

「そうですね、そんな感じです。なんか眠っているんだと思う。でも私たちの根本は一緒だと感じます別々の2人って感じはしない」

 話をちゃんと聞いてくれていたのか、鉄が怪しむ顔をしなくなっていた。

「話をしていると姫だって感じはするな、匂いが完全に違うけどな」

 黒井さんが面白そうにしている、鉄とそれなりに信頼関係が築けているのだろう。鉄もなんだかこちらに馴染んでいるのは本当のようだ。

「まあ、何となくこんな感じで色々話をしていきましょうか」 



 黒井さんがそれとなく話をまとめ、何となくみんな静かになった。














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