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4人目のイレギュラー



 私はさっきまで必死に走ってきた道をゆっくり帰った。

 見られたくないと、黒井さんが言うので、ちょっと遠くなる小道を通りながら帰った。

 幸いにも曼ちゃんは挙動不審にはならなくて、大人しくついてきてくれた。黒井さんも、少し離れたところではあったが、見えなくならないくらいのら後ろについてきていた。

 道中思ったよりたくさんの人がすれ違い、やはりこちらを見ていた。おそらく曼ちゃんの服装や長い髪に違和感を感じる人がいて、気になってしまい見た、という感じだろう。

 服装や髪型が多種多様になったとはいえ、ここまで田舎になると、新しいスタイルや遠い場所のの人やことは嫌煙されがちだ。裏道を選んだおかげで人通りがそんなに多くなかったのは幸運だった。

 天気が悪いこともあり、危険を感じている人は家から出たくないのだろう。私みたいに家を飛び出すのは少数派、家で待機が大多数のようだ。

 雷が落ちた、隕石が落ちた、いや飛行機だった、など色々な憶測を話しながら、野次馬たちが現場に向かっていく。そんな人はどこにでもいるようで、少なからずはいた。という程度の通行人だった。

 家に着くと、玄関ドアが少し開いたままだった。鍵を閉め忘れたのは心当たりがあるが、戸も閉め忘れていたなんて。これで変な人に何か盗まれていたらと思うとゾッとする。

 ため息をつきながら家に入る、一応誰もいないのを確かめてから室内に入った。

 うちは玄関すぐがキッチン、そこが廊下にもなっていてユニットバスが真ん中にある。廊下を進めば部屋につながっている。

「曼ちゃん、ここは履き物を脱ぎます。そしたら手を洗います。それで中にどうぞ」

 大人しく靴を脱いで、そそくさと手を洗って室内に連れて行く。そうこうしているうちに黒井さんが玄関までついたようだった。

「不用心すね。鍵開けっぱなし?」

「慌てて飛び出しただけです。……いつもはちゃんとしてるもん」

 確かに学生アパートで一階に暮らしている女子が部屋の鍵も閉めずにドアも開けたままなんて、不用心にも程がある。

 黒井さんがニヤニヤしていて、なんだか小馬鹿にしているのが見て取れる。どうにも苦手なタイプかもしれない。

「とりあえず、中へどうぞ」

 黒井さんにも手を洗うように促し、玄関の鍵を閉めた。リビングを覗くと曼ちゃんはどこに座るのか分からずキョロキョロしていた。

「曼ちゃん、とりあえずそこの床で座ってて」

 私は部屋の真ん中の何もない空間を指差した。座布団も何もないので、ただ床に座るしかない。

 曼ちゃんは言われるがまま、そこに座った。もしかすると私がさっき言った『大きな声出さない』という言葉を、『話してはいけない』だと思って勘違いしているのかもしれない。そのままの方がかえっていいのかもしれないのと思い、あえて適正はしない方向でいよう。

「黒井さんも適当にかけてください」

「はーい。お邪魔しますねー」

 遠慮も何もない軽やかな足取りで、1番奥にある私の机とセットにしてあるちょっといい椅子に座った。

 私は冷蔵庫から麦茶のボトルを取り出して、3人分のグラスを持って行った。

「さて、ではまず状況を整理しましょう。他の自己紹介から、でいいかな?」

 私はとりあえず頷いて、黒井さんのところにしかないテーブルにグラスを置いて麦茶を注いだ。ひとつはそのまま置いて、2つは持って私もベッドの上に座った。1つはすぐ目の前の床に座る曼ちゃんに渡して、私はもう1つに口をつけた。

「ではね、まず僕の名前は黒井です。長くなるところを簡潔に話しますと、実は秘密組織の一員で、この黒ずくめの姿は……」

 とても真面目な顔でそこまで話して、急にだまってしまった。

「あ、ふざけたのはやめましょう。君真面目なタイプね」

 私の方を見て咳払いをした。曼ちゃんは興味なさげにそうにそっぽを向いたままだった。

「そうだね、とりあえず真面目に話すといわゆる超常現象、怪奇現象と呼ばれる事象を研究をしているところの事務職員なんですけど。仕事内容はマルチで、今の所は君の前にこっちの世界にきた、テツ君のマネージャーみたいな感じかな。ちなみに落っこちてきたというのかなんなのかわからないんだけど。それで今回はじめて時空の歪みとやらが発生直後に確認できて、そこの現場の近くにいた僕が向かうように言われてきたという感じですね。はい、とっても簡単よ」

 顔の前で両手合わせてパチンと鳴らして可愛い感じでお話しは終了だった。

「えっと、どこから突っ込めばいいのかって感じなんだけど、その研究をしているのって秘密組織? なんですか? 危ない宗教とかではないやつ?」

「国家機密ですが、国営から民営化されそうな感じになっています。民営化されたら少しずつ情報開示されるかもしれない、かもしれないくらいだね。まあ詳しい話は後で研究所の職員からしてくれると思うから、なんとなく雰囲気把握してればオッケーだと思うよ」

 なんとも適当な感じの大人だ。家にあげたのは間違いだったかもしれない。それになんだかさっきより頭が痛くなってきた。急に夢を見たみたいに、名前のことを思い出したから頭が痛いのかと思ったのだが。全力で走ったのが久しぶりすぎて、体がびっくりしたのかもしれない。私はぐいっと麦茶を飲み干した。

「世界の穴からこちらにきた人は、うちで把握しているのでは君が3人目。1人目はデンくん、彼はちょっと拘束中。テツくんはなんだか順応が早くて、自由に出歩いて一緒に動き回ってくれてる。そしてバンくん、君がこれからどうなるかは不明。そしてイレギュラーの4人目、こちらで生まれ育って、あちらの記憶のあるヒメ。いやあ渋いね〜」

 私の夢で見ていた世界が実際に異世界にあって、ここの世界? に3人もきている、ということらしい。でもそれだとあちらでは

 黒井さんに少し手を振ってみたら気がついてくれたので、質問をしてみる。

「曼ちゃんは異世界転移をしてきていて、私はいわゆる異世界転生していることになるのかな?」

「まあアニメ的にはそうだと思うんだ、僕的にも。あとは研究所の職員たちはね、多分こういう理屈がどうのって言って変な言葉つけてくるから。まあ理解するにはその異世界転移とか転生で感覚的にはあっていると思うよ」

 私には理解できるが、曼ちゃんには難しいようだ。わからない時特有の目を閉じたまま黙るという状態になっている。頬を指先でつんつんと触るとびくっとして目を開けた。

「デンとテツもこっちにいるのはどういうことなんだ? 俺はつい一刻前くらいかな、落ちてくる少し前にはテツと話していたんだぜ」

 多分曼ちゃんがわかった会話の内容のとこにだけ、質問があるみたいだった。

 黒井さんがにこにこの笑顔でそれはねー、と話してくれた。

「君たちの居場所でも時間がずれているっぽいんだよね〜。デンくんはこちらで6年前に発見されたんだけど、なかなか会話がうまくいかなくて状況がわからないままだったんだ。そんで今から2年前にテツくんが発見されて、少しずつ話ができて色々わかってきたんだ。デンくんテツくんの現れる間でこちらでは4年があるわけなんだけど、こちらにきたばかりのテツくんに聞いた話ではついこの前にデンくんと会ったという話があって。謎ばかりだよねー」

 時間と空間がどーのこーのと、何やら黒井さんでもよくわからないのか説明にもなっていないことをペラペラと語っている。

 デンとテツ、その響きはとても懐かしく聞こえる。思い出せるような思い出せないような、きっと知っているはずだ。また夢を見たら、今度は覚えたまま起きられるだろうか、思い出した状態で会えるだろうか。

「君たちの話はテツくんから聞いたんだよ。テツくんは君たちのことより彼女を探しているみたいだけど」

「りつかのことか」

「そうそう」

「あいつも巫女だからな。先見があったならどこかで会うだろう」

 りつか、また知らない名前……。この人もまた夢で会えるのだろうか、それとも先に実際に会うことになるのか。

 それにしてもおかしい、頭が何かに潰されていくかのように痛い。曼ちゃんの手に、飲まれずにそのままになっている麦茶があった。

「曼ちゃん、お茶いらないならちょうだい」

「ん? ああ」

 クラスを交換してもらつた。それも一気に飲み干し、何度も深呼吸する。脱水なのか、酸欠なのか、一体どうしたのだろう。

「大丈夫? 顔色悪いね」

 黒井さんにまで心配されるくらい、目に見えてやばい顔なのか。

 すると曼ちゃんが急に手を握ってきた。

「お前はこうしてたら治るだろ」

 ぎゅっと手を握っていると、なんだか手のひらから熱が伝わるように腕にビリビリした感覚が伝わって行く。

 ーーズキン

 急に頭に大きな衝撃がきて、私の視界は一気に真っ暗になった。

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