新生児の戦闘能力
「―戦闘終了。当機は通常形態に移行。」
『~~、~~♪』
―<新生児「フェクティ」と新生児「アリセ」のレベルが上がりました。20SPと30PPを獲得しました。><職業と種族のレベルが上がりました。30SPと42PPを獲得しました。>―
キィーン……と徐々に起動音が収まっていき、両腕に着いたパーツが元に戻っていくフェクティと、周りにある無属性魔力を収めて上機嫌に歌うアリセを横目に、俺は二人が起こした目の前の惨劇に言葉を失った。
「………誰だ、序盤は戦えないって言ったやつ。」
魔犬の群れ、二十三体。
新生児の能力確認の為に、ちょうど良さそうなレベルの敵を探していたら接敵してしまった<グループモンスター>。
通常より少しレベルが低い三体以上の個体が集まり、群れとして一つのモンスターに成っているモノたち。全ての個体を倒さなければ素材を落とさず、群れの数が減っていくと高確率で逃走を図る為、プレイヤーからはまずいモンスターとして避けられてる。その分、一匹残らず倒しきれたら確定でレアドロップと通常より良い品質の素材が多く得られる。
そんな数が多いモンスターと出会い、まだレベルが一つも上がっていないフェクティたちじゃ部が悪いかと思い逃げようとしたが、フェクティたちが問題ないと言ったのでそのまま戦う事にしたんだが………。
「……俺が援護せずに瞬殺とか、やばすぎだろ。」
先ず動いたのはアリセからだった。
元から数センチは浮いていたんだが、そこから更に浮かび上がり、自身の周りに五つの野球ボールほどの無属性魔力で出来た『魔球』を生成。一番に端に居た魔犬たちに向けて放ち、正確に眉間に直撃させ気絶一歩手前の酷い¨眩暈¨状態にさせる。
その間に、フェクティは両腕に装着したひし形のパーツを変形させて戦闘形態に移行。
右腕のひし形の両端が先端にスライドして先が糸切りバサミの様な形になり、そこから半透明な光の剣が現れ、その剣で一番先頭にいた魔犬を両断。
左腕のひし形パーツは複雑にスライドしていき、かくかくなUみたいな形になる。そこからビームの様な光弾が放たれ、端でふらついている¨目前¨状態の魔犬五体を貫く。
その後、アリセが大型犬より大きな無属性魔力の円盤を五つ生成し、奥で様子を窺っていた五体の魔犬を押し潰す。そこでMPが切れたのか、浮遊を止めて俺の傍に降り立った。
流石にフェクティ一人で十二体はきついだろうと思ったが、直ぐにその考えは覆された。
飛びつきを華麗に交わしては半透明な光の剣で切り伏せ、噛みつこうとした個体を光弾で貫き、流れる様に敵を殲滅して行く。
このゲームではクリティカルとは別に、人の首を切り飛ばす、コアとなる個所を破壊すると言った残りHP関係なく一撃で倒しきる致命システムがある。人は頭と胴体を分けられたら死ぬように、生き物は心臓を壊されると徐々に死んでいく様に、絶対的な弱点を突かれるとHP関係なく倒される。
無論、このシステムにも条件が存在している。
相手とのステータス値の差がスキルや職業補正込みで合計100以内である事。こちらの攻撃が相手の耐性より上である事。(例、敵の斬撃耐性が10でこちらの斬撃威力が11の場合、致命成功。)
因みに、スキルや種族特性、又は仕様によってこの絶対的弱点が無い存在もいる。
フェクティはこの致命システムを積極的に狙い、魔犬を次々と倒していく。斬っては撃ち、舞う様に避けては倒す。その様子をアリセは笑顔で見つめ、俺は新生児たちが想像以上に強い事で考えを改めた。………てかフェクティに関しては俺より強くね?いやまぁ種族補正で元からステータスに関しては負けてたが。
とまぁ、こんなそんなで戦闘は終了。今は新生児の強さに驚きながらそれぞれのステータスを上げている。新生児のレベルアップ時の獲得SPはプレイヤーと違うらしく、プレイヤーより少ない。メインにレベルが無い分、少なくなっているみたいだな。
因みに、プレイヤーはメインで10SP、サブで5SP程貰える。
レベルは基本的に全て戦闘で上がるが、職業は自身が就いた職業に沿った行動や結果でも上がる。
例を上げると、剣士なら剣を振るう事で、コレクターならアイテムを集めると言った感じで職業レベルを上げれる。後、職業と種族関係なく二桁からレベルは上がり難くなる。サブ職はレベル上限がある。
ドロップアイテムは<痩せた犬皮>が32個、<魔犬の牙>が26個、レア泥で<魔犬の全身骨格>と言った感じだ。これらのアイテムがどれぐらいで売れる、又はどのように扱えるか分からないが、これだけ数があるのは結構美味しいんじゃないか?
「マスター、当機は[MP]と[INT]を上げたいと進言します」
「おっけー。今あるPP全部をその二つだけに振る感じか?それとも少しだけ他に振る?」
「……では、二つに11ずつで残りを均等にお願いします。」
「分かった。SPも結構あるが何か取りたいスキルがあるか?……って言っても、選べるのは習得可能一覧に乗ってるもんだけだが」
えーと、フェクティの習得可能なスキルで良さそうなのは……≪剣術(機光)≫…≪狙撃(機光)≫……ん、≪舞≫?確かに光剣と光弾のエフェクトで綺麗な舞みたいだと感じたが……そんな簡単に習得可能になるものなのか?てか必要PP高っ!今まで全部6PPだったのにいきなり12PPも必要なのか。
「……未来予想終了。当機は≪狙撃(機光)≫と≪舞≫の習得を望みます」
「了解。……習得完了っと。後はステータスを振って……良し。次はアリセだな。振りたい項目と取りたいスキルはあるか?」
『~~!』
「フェクティと一緒で[MP]と[INT]上げで他は均等?」
『~~♪』
「分かった。スキルはどれだ?」
『~~♪♪』
「≪歌≫と≪付与術≫?……これまたお高いスキルばっかだな。」
二人の要望を聞き、ステータスアップの作業を終わらせる。……ふむ。こう偏っているなら、俺は前線よりに傾けた方が良いかな?とりあえず、今の幸運技量戦士を主軸に少しだけ[AGI]と[HP]に多めに振って回避タンクも出来る様に調整するか。
そして出来た俺達のステータスはこちらに成っております。
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「ヒアト」
:種族
メイン・[電子人間:Lv4]
サブ・[普人:Lv4]
:職業
メイン・[憑依使い:Lv4]
サブ・[機人使い:Lv4][精霊使い:Lv4]
:ステータス(SP0)(スキル補正)
[HP:16]
[MP:12]
[STR:14(+2)]
[VIT:12]
[INT:25]
[DEX:25]
[AGI:20(+2)]
[LUK:25]
:スキル(PP47)
≪操縦者≫≪精霊術≫≪憑依一体≫≪武具の心得≫≪防御の心得≫
≪調教≫≪契約≫≪格闘≫≪観測≫
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「フェクティ」進化深度[Ⅰ]
・コア
メイン[新生児]
サブ[機人:Lv3]
・職業
メイン[機械兵:Lv3]
サブ[製造者(見習い):Lv3][設計者:Lv3]
・ステータス(SP0)(+コア補正)
[HP:12]
[MP:21]
[STR:11]
[VIT:16(+5)]
[INT:41(+10)]
[DEX:21]
[AGI:21(+10)]
[LUK:12]
・スキル(PP6)
≪変形機構≫≪パーツ強化≫≪部品製造≫≪狙撃(機光)≫≪舞≫
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「アリセ」進化深度[Ⅰ]
・コア
メイン[新生児]
サブ[精霊:Lv3]
・職業
メイン[属性精霊:Lv3]
サブ[収集者:Lv3][自然学者(見習い):Lv3]
・ステータス(SP0)(+コア補正)
[HP:12]
[MP:41(+10)]
[STR:11]
[VIT:11]
[INT:36(+5)]
[DEX:11]
[AGI:11]
[LUK:22(+10)]
・スキル(PP6)
≪自然奏者≫≪収集≫≪自然知識≫≪歌≫≪付与術≫
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新しく覚えた≪観測≫は、対象を見つめて分析するスキルだ。観測対象を見つめる時間が長ければ長い程、詳しく分析できる。簡単に言えば、識別システムの補助スキルと言ったところか。
因みに、種族効果ありで今まで習得に必要なPPは2PPだったのに、このスキルは10PPも必要だった。
フェクティが覚えた≪狙撃(機光)≫は、絡繰りから生まれた機光と呼ばれる特殊な魔力を使った射撃に補正が掛かり、射程と威力、機光継続が伸びる。
≪舞≫の効果は、舞を踊る時に補正が掛かり、自身の動きを第三者から見た時に舞みたいだと感じさせる事が出来、見る人が多いければ多い程に自身のステータスを強化する。副次効果で、体を滑らかに動かしやすくなる。
次にアリセが覚えた≪歌≫の効果はこれまた単純で、声が届く範囲内の味方の精神を向上させ、敵の精神を揺さぶると言うモノ。対象とする数を絞る事で、効果を上げる事が出来る。効果時間は変わらない。
≪付与術≫の効果も簡単で、味方にバフを付与して敵にデバフを付与すると言うモノ。これも対象を一人に絞ることで付与効果を上げる事が出来る。こちらは絞る事で効果時間も伸ばす事が出来る。
ステータスとスキル構成と見ると、フェクティは前衛も出来るやや後衛よりの遊撃手で、アリセは魔法アタッカー兼後方支援の完全後衛で、俺が敵のヘイトを取りながらDPSを頑張る幸運技量軽戦士兼回避盾と言った感じで少し歪なパーティーと成った。………う~む、スキル構成だけ見るなら俺は後衛よりなんだがな。あと二つ程は前衛系スキルが欲しいところ。―というか俺の負担半端ねぇな!
「って、結局俺戦えてないから武器を試せなかったな」
【ソードタクト】の使用感を試したかったが、今日の所は一度都市に戻るとしよう。種族レベルが十に成るまではデスペナルティは無いんだが、できるだけデスしたくないしフェクティたちをデスさせたくない。初めてのフィールドでレベルが三つ上がったんだ。成果としては良い方だろう。
そして何より、俺が都市を見て回りたい!
パッと見、商店街と教会通りが面白そうだった。何もゲームの楽しみ方は戦闘だけにあらず。色々なことをしたい俺にとって、都市回りは欠かす事の出来ないモノだ。開始から日が立って探索されつくしたとしても、何が隠れているか分からない。そういうのを見つける為にも、都市を回って楽しむのだ。
「てことで本日のフィールド探索は終了!残りの時間は都市を回る事に使う。」
そうして、俺達はフィールドを後にした。