二つの¨新生児¨
<もう一つのリアル、もう一つの世界である¨エボリューション・グロウワールド¨へようこそ!私はこのゲームを初めてプレイするプレイヤーを担当するナビゲーションAIの「ビ二ー」です!>
仮想空間への移動に伴うふらつきを終えて覚醒した意識が捉えたのは、膨大な本が宙に浮かんで漂よっている白い空間の中央でお辞儀をする可愛らしい妖精の姿だった。
その妖精は「ビニー」と名乗り、漂う本に乗って嬉しそうにこちらを見つめている。
<ここでは、グロウワールドの中で過ごす貴方のアバターを設定します。容姿、性別、ステータスにスキル……そして、貴方と一緒に成長する新生児の創造などを行います。>
―¨新生児¨……それは、このエボグロが神ゲーとして呼ばれている最大の要素。
二体の雛形AIを自身の好みに合わせて自由に作成し、グロウワールドで一緒に過ごすパートナーとして連れていく事が出来る。
カスタマイズの自由さは無限とも呼ばれ、ドラゴンやライオン、エルフと言った存在に設定でき、ステータスも戦闘特化から生産特化まで幅広く自在に選ぶ事が出来る。
そして何よりもプレイヤー達から熱烈な人気を集めているのが、新生児の進化と成長システムだ。
プレイヤーの成長に合わせて新生児は独自の成長を果たし、進化する。その成長は無限にあり、その進化は世界で唯一無二の存在となる。………まあ簡単に言うと、自分だけのパートナーが世界で一つの凄い存在になると言う事。つまりはユニーク、ゲーマー達が憧れるオンリーワンのシステム。
ゲーマー達の要望をピンポイントで与える様な進化と成長システムが、このゲームを神ゲーへと押し上げたのだ。……世界一位の理由はこのシステムだけではないけどな。
<さあ、貴方はどんな姿を望みどのような力を求めますか?>
目の前に現れたウインドには、現実の俺と同じ裸体が映し出される。………性別の違いを表す部位が諸に出たまま。ええい、先ず簡素な服を着させろ!てか何で最初から裸なんだよ!普通は肌着で隠すだろ!……なに?容姿を決定した後じゃないと装備を選べない?え、まさかの肌着装備扱い?!
急いで髪色と瞳をピンクかかった糸の様な白に変え、ほんの少しだけ筋肉密度を増やして細マッチョモドキへ体を変えて容姿設定を終わる。決定を押すと、自身の体が光に包まれた後、容姿がアバターのモノへと変わる。
家族の総意で肩まで延ばされた先が桃色がかった糸を連想させる白髪に同じ様な瞳をした、凛とした着物美人と呼ばれる母の血を濃く受け継いだ十人中七人が女子と見間違えるクール系女顔に、身長160㎝の少し筋肉が付いてきたかな?位の健康的だが男にしては細めの体格。
髪色と瞳色以外リアルと殆ど変えていないアバターが、鏡のウインドを見つめて目を瞬かせて立っていた。
「うわぁ……マジか………まあ、別に大丈夫か。他ゲーでも髪色位しか変えてなかったしな」
あまり筋肉質な体は好きじゃないが、もうちょい筋肉を付けた方が良かったか?……昔から筋肉を付けるなと言われてたし、くれぐらいでも文句言われそうだな。
アバターの出来栄えを確認し、次のステータス設定に移る。
このゲームでは、プレイヤーのステータスは一般的なレベルとジョブとスキル制と成っており、種族を選び、ジョブを選んだ後に関連するスキルを習得できる。
種族はメインとサブがあるがメインは[電子人間]に固定されており、サブに普人やエルフなどを選択できる為、実質的にサブがメインみたいなものだ。無論、種族にもデメリットとメリットが存在している。
例えば、サブに[普人]を選ぶとステータス補正がほぼ無いに等しが代わりにスキル補正が強力だったり、[エルフ]を選ぶとMPとINT、精霊や森林に関係するスキルに強力な補正が入るが、他のステータスやスキルには微々たるものしか補正がない等、割と細かく決められている。
その為、魔法で無双したいなら[魔族]、鍛冶をメインにしたいなら[ドワーフ]みたいな感じで、自分がやりたい事に合った種族を選ばないといけない。
「ん~~、やっぱり俺は[普人]かな。」
俺はこのゲームを満遍なく遊びたい為、色々なスキルを取れるスキル特化の[普人]を選択。簡素な肌着が、他の作品では村人が着ていそうな一般的な動きやすい服装へと変わる。どうやら、種族を決定するとその種族間で一般的な服装に自動で変わるみたいだ。服を見渡し、以外と似合ってる自分に驚きながらも次の項目へ進む。
ステータスには、[HP] [MP] [STR] [VIT] [INT] [DEX] [AGI] [LUK]と言った八の項目があり、種族レベルアップ時に貰える¨SP¨と呼ばれるポイントを消費する事で好きな項目を上げる事が出来る。
基本的には他のゲームと同じ様な仕様だ。
ステータスを簡単に表すと、[HP]が体力。[MP]が魔力。[STR]が物理や攻撃力てきなアレ。[VIT]が耐性や防御力てきなアレ。[INT]が知力と魔法てきなアレ。[DIX]が技量と器用さてきなアレ。[AGI]が反応と速度てきなアレ。[LUK]が運勢と確立てきなアレ。
今言ったモノ以外にも色々な面に補正だったり効果が出てらりするらしく、詳しくは定かには成っていない為、てきなアレと表している。
他にも、クエストやスキルの影響で項目が増える事があるそうだ。
これは、海がエボグロをゲットして俺が手に入れれなかった、未練たらたらで友への妬みで悪魔を呼べそうな時にみたエボグロ公式掲示板に乗っていた情報だ。
あるプレイヤーの新生児が成長したら、何時の間にかステータスに[AGP]と言う項目が増えていたそうだ。それ以降、珍しいがチラホラと項目が増えたプレイヤーが現れ始めた。
この追加されるステータスを、プレイヤーは¨DLステ¨と呼んでいるらしい。
「俺のプレイスタイルは決まってるし、ここはパパっと振るか。」
最初に100SP程貰えたので、それを消費してステータスを振っていく。
先程も言った通り、俺は満遍なく色々な事を楽しみたいのでステータスは均等的に振り、一部を少し多めに振るう。
項目にSPを振り終わると、次は職業決めか?………と思っていたが、職業となんならスキルも飛ばされ、いきなり新生児作成のウインドが現れる。
「後で決めれるだろうし、別に良いか」
そんな感じで二体の新生児の作成に入るわけだが…………さて、どうしようか。
新生児作成の最初の項目である素体設定、つまりは魔物型か人型、もしくは道具型か装備型を決めるところでいきなり躓いてしまった。何て言ったって、選べる素体が多すぎるのだ。
特に最初から決めていたわけでは無いし、自分のプレイスタイルに合うやつなら良いかと軽い考えで始めたが、相性が良さそうなモノを見つけるだけで時間が掛かりそうだ。
「……できるだけ早くゲームを始めたかったが、これは妥協できないからな。」
なんせこのゲームのメインコンテンツだからな。ゲーマーとしては妥協なんて選べない。これは長丁場になりそうだと覚悟を決め、素体詳細を一つ一つじっくりと確認していく。
「――完璧だ……。我ながら素晴らしい!これほど自分の好みに合わせれるとはな!」
素体選択に一時間。容姿設定に一時間。ステータスとスキル設定に三十分。計二時間半の時間を費やし、完璧と誇れる新生児を完成させた。
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「フェクティ」進化深度[Ⅰ]
・コア
メイン[新生児]
サブ[機人:Lv1]
・職業
メイン[機械兵:Lv1]
サブ[製造者(見習い):Lv1][設計者:Lv1]
・ステータス(SP0)(+コア補正)
[HP:10]
[MP:10]
[STR:10]
[VIT:15(+5)]
[INT:30(+10)]
[DEX:20]
[AGI:20(+10)]
[LUK:10]
・スキル(PP2)
≪変形機構≫≪パーツ強化≫≪部品製造≫
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一本一本が固い線の腰まである長い銀髪回路。眼鏡が似合いそうな知的でクールな美顔。赤い瞳から下に伸びる一本線の魔力回路。手首から肘まで覆う様に装着している平べったいひし形のパーツ。人型の機械では無く、機械で出来た人の様な造形。
機人の新生児「フェクティ」。
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「アリセ」進化深度[Ⅰ]
・コア
メイン[新生児]
サブ[精霊:Lv1]
・職業
メイン[属性精霊:Lv1]
サブ[収集者:Lv1][自然学者(見習い):Lv1]
・ステータス(SP0)(+コア補正)
[HP:10]
[MP:30(+10)]
[STR:10]
[VIT:10]
[INT:25(+5)]
[DEX:10]
[AGI:10]
[LUK:20(+10)]
・スキル(PP2)
≪自然奏者≫≪収集≫≪自然知識≫
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腰まであるふわりとした自然を連想させる優しい黄緑の長髪。美しき空と海面の様な薄い水色の瞳。母性を感じる可愛い系の美人。薄緑のワンピースの上に落ち着くアロマの香りを纏わせる草蔓が巻き付き、二の腕から手首にかけてゆらゆらと柔らかそうな木の枝を鞭の様に纏わせてる。
精霊の新生児「アリセ」。
「この二体こそ、俺にとって最高の新生児!」
この機人と精霊と言った選択には勿論理由がある。この二つは、スキル構成によって何でもできるのだ。
機人はその特性上、絡繰り系統を作成する時に必要な設計図を持っていればその設計図に乗っているモノ、又はシステムを自分の物に出来る。つまり、設計図さえあれば万能なのだ。……尚、設計図の入手難易度は考慮しないものとする。
精霊は属性因子と言う属性の元、つまりは自然の力さえあれば好きな様に属性を操る事が出来るのだ。この力を使えば、自在に道具や武器に属性を纏わせる事が出来る。その場その場の状況に合わせて、敵の弱点属性をつくことがが出来る。
無論、メリットにはデメリットが必ず存在する。
機人は通常形態と戦闘形態の二つのモードがあるが、戦闘形態を維持するのにMPを常に消費するし、スキル使用にも消費するので今の段階だと五分も持たない。
精霊は属性因子を自然から吸収する事で属性を操れるようになる。だから、属性を操る為には操りたい属性の元となる属性因子が強い環境に定期的に訪れないといけない。水属性を操りたいなら湖、木属性を操りたいなら森林と言った感じだ。
簡単に言うならこの新生児たちは大器晩成型であり、序盤はあまり役に立たないのだ。その分、プレイヤーが強くなり行動範囲が広がれば広がるほど強力になり、色々な事が出来る万能型に育っていく。そして万能型こそ俺の求めるモノ。
「強くなるまで、俺がこの子達を育てればいい!」
因みに、この二人が人型でこの容姿なのは完全に俺の趣味。………知的クール銀髪美人と自然が似合う優しいお姉さん系美人って、良いよね。人外、それも機械っ娘と精霊お姉さんだ。もうドンピシャどころか運命に導かれて出会ったとしか言いようが無い。まあ運命も何も、俺が創ったんだけど。
「そしてここから、自分のステータス設定なのね。……うん、長くなりそう!」
新生児作成を終え、自身のステータス設定に戻る。………時間かけちゃったし、出来れば手早く済ませたい。膨大な職業の欄をスクロールしながら、この新生児たちと相性がよさそうなスキルも探し出す。