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「うわぁ、マシでいるよぉ。どっから攫ってきたのさ、この娘」
突如として発せられた溌溂な底抜けて明るい声であたしの意識は再び覚醒した。
あたしの目の前には黒髪のショートカットのセーラー服2号。
華恋さんとは違って胸は控えめだけれど、やっぱり美人だった。
これは、成人したときに化けるタイプと見た。
なんでこう、直近であたしの周りに綺麗な女が2人も現れるかな。
なんだか、壮絶な嫌味を言われている気分になる。
まあ、あたしが卑屈なだけって言われたらそれまでなんだけど。
「攫ってきたんじゃないわ。保護したのよ。あの男になにかされて記憶喪失みたいになっちゃたみたいだっから」
それに、セーラー服2号さんは、あぁね、と相槌を打つと、
「どうも、はじめまして。わたしは緋山香月。そこにいる華恋とは腐れ縁。まあ、よろしく」
丁寧に自己紹介をしてくれる。
あたしもどうも、なんて言いつつ、
「自分の記憶に関してだけピンポイントで思い出せないので、仮名ですけれど、霧島メアリと申します。どうかよろしくお願いします」
「ねえ、華恋。この娘、連れて帰ってもいい? うちの娘にしたい」
だめ、と即答する華恋さん。
「そんなことより、さっさとやっちゃって。この娘も自分のことが思い出せたならそれが一番いいのだから」
あいよ、頷く香月さん。
「それじゃあ、やるよ。
『思い出せ、呼び起せ、すべてを明かしここに示せ。
――記憶開示式 ムネーモーシュネー』
さて、それでは、ご開帳!」
その刹那、あたしの周囲にスクリーンが開き――
ってこれあたしの経験した出来事ジャン。
プライバシーガン無視かよ。
まあ、しょうがない。そう切り替えてあたしも公開処刑画像をみるけれど、
「うん、こりゃ、あれだね。ほとんど、漫画とかアニメとか小説とかの記憶ばっかりだね。少年漫画ばっかり見てるんだ、メアリちゃん。少女漫画はお嫌い?」
ほっといて欲しい。
敢えていうなら、男を良くも悪くも美しく見せすぎだし、エロ漫画かって思うほどエッチばっかりしてるからあたしは好きじゃないんだよね。まあ、しょせんフィクションじゃんって言われちゃそれまでだけど。
あたしがそう答えると、ああ、それわかる、と同意を示してくれる。
「それにしてもあんた人が殺されてるっていうのに通報もしないなんてヤバイわね。ホテルに泊まった次の日に偶然あの男をみつけるのもなかなかな運だけれど、普通さ、リア凸するかな」
あたしたちの和気藹々とした会話に割り込む華恋さん。
それこそほっといて欲しかった。ていうか、殺しの実行犯たるあなたに言われたくはない。
あたしは傍観者なもんで、と言い訳程度に答えると、異常者の間違いでしょ、なんて辛辣なコメントが返ってくる。
すげえよ、この人。完全にダブルスタンダード状態だよ。
それ、一番嫌われるやつだぞ。
「そんなことより、おかしいな。わたしの能力は本人も覚えていない記憶の開示なんだけど、映し出されないってことはあれだね。産まれてから今に至るまでなにも経験していなかったってことになるね」
え、何それ、マジで怖いんですけれど。
「もうちょっと具体的にいうとだね。キミはその姿の状態で最近産まれた存在ってことになる。もしくは――」
「存在自体をあいつに消されたってことね」
香月さんの解説を華恋さんが結論付けた。
ちょっと待って、それじゃあ――
「それじゃあ、今ここにいるあたしは何なんですか? 元々いたかもしれないあたしという存在の搾りカスとでもいうんですか?」
返答は無言だったが、それがどうしようもなく肯定の意であるのは流石のあたしでも理解できた。
なに、本当に笑えないんだけど。冗談にしては最悪すぎるし何より質が悪い。
あなたはどこの誰でもありません。残念でしたさよなら。
殺されるよりも酷い仕打ちを受けているんじゃないだろうか?
「だからこそ、あいつを今度こそちゃんと殺さなくちゃいけない」
華恋さんのその一言で現実に引き戻される。
「あんたのその存在喪失状態の原因は間違いなくあいつにある。それは、疑いようもなく断言できる。だから、安心なさい。私たちがあんたを助けてあげるから」
そんな一方的ともいえる力強い宣言にあたしは、
「……あの男の人は一体何なんですか? それに、貴女たちの目的は?」
震え声でそう訊ねる。
華恋さんは凛とした表情で、
「あいつはブギーポップ風に言えば世界の敵。私たちはそいつから世界を救う正義の味方よ」