再会/脅迫/解呪
それは、あたしがジョイフルから出て少し歩いた先での事。
唐突に後ろから服を掴まれる。
軽くパニックを起こしそうなあたしの耳元で、
「振り向くな。それと、刺されたくなかったら、先の角で左に曲がりなさい」
鈴のようなソプラノ。
きっと、相手は女の子。
そして、これは、当然あたしに対する指示。
無視したときに降りかかる事態を身を持って味わいたくないあたしはそれに従う。
事前に下調べをしてあったのか、まったく人気のない路地裏に誘導されてしまう。
そこで、あたしは彼女に壁を背後に正面から押さえつけられる。当然のように首筋には包丁が付きつけられているけれど、これでようやくご対面。
とても綺麗な顔立ちのセーラー服の女の子。確か、すごく頭のいい学校の制服だったはず。
烏濡れ場の艶やかな黒髪を肩まで伸ばしてそれをポニーテールで後ろにまとめている。
あたしは小柄で自分でいうのもなんだけれど、その、とても貧相な身体をしているので、頭一つ分見降ろされている形なのがなんとも悲しい。
目の前に見事に育った双丘が揺れているのが、それに拍車をかけてくる。
ふん、いいんだもん。あたしだって成長期だからこれからに期待――
「私が訊くことに正直に答えなさい。いい?」
あたしはこくり、と頷く。
「あんたはあの男と一体何の話をしていたの?」
は? 何のこと? まったく、身に覚えがないんですけれど。
そう、正直に言うと、
「どうやら、日本語が理解できないのかしら。確かにあんたはさっきジョイフルで昨日の夜に私が殺した男と話していたじゃない」
え? なにそれ? あそこにはあたし一人で――
『そもそも、あんたは夜公園に立ち寄らなかったし、俺が死ぬところを見たりなんかしていなかった。
――因果変換式 ラプラス』
――そう、あたしは一人でランチと食後のコーヒーを楽しんでいただけなのに。
再び、あたしがそう釈明すると、
「そう、そういうこと。あいつ、口封じはしっかりこなしていた訳か。だけど、なにがなんでも思い出してもらうわよ。
『私はその変換を認めない。私はその変換を許さない。歪みを正せ。
――対因果変換式 ノルン』
どう? 思い出した?」
『そ
も そも、あん
たは夜公園に立ち
寄らなか
ったし、俺が
死ぬところを見たりな
んかしていなかった。
――因果変
換式 ラプ
ラス』
あたしのなかの何かが弾けた。
ていうか――
「あなた、昨日の公園の殺――」
「どうやら、成功したみたいね」
昨日の殺人鬼お姉さんは慌ててあたしの口を手で覆い、
「じゃあ、改めて訊きましょうか? あんたはさっきあいつとなんの話をしていたのかしら?」
にこやかに笑って問いただす。
うん、別に話すのはいいんだけれど、
「あの、場所、変えません? ここじゃあ、あたし気が滅入っちゃうんで」