始まり/闇夜/傍観
さて、今回はエタらないように頑張っていく所存でございますので、よろしければ感想などを置いて行っていただけたら幸いでございます。
もし、の話をするとして、この平穏の一幕に世界の命運をかけて殺し殺される男女がいたとして誰がそんな与太話を信じるだろうか?
あたしならばきっと信じない。
そんな、三文小説のネタににすらならないような話は余所でしてほしい、とすら思うだろう。
残念ながらあたしが今から語るのはそんな誰も報われない話だ。
あたしという傍観者が記録した世界の介錯人として選ばれた少年と世界の延命を望んだ少女の愛の記憶。
無駄な時間を過ごしたくないという顔も知らず、名も知らないそこのあなたはお引き取りをお薦めするけれど、付き合ってくれる物好きな方がいてくれるなら、その時は――
☆ ☆ ☆
一つ了承戴きたい事情があるのだが、あたしになにか斬新な語り部としての切り口を期待されている稀有な方には申し訳ないのだが、傍観者という肩書――しかも、自称――以外は平凡以下のこのあたしはやはりその通りに平凡な語り部としての能力しか持ちえないので、どうしても在り来たりになってしまうきらいがある。
まあ、だからなんだ、という話だけれど、つまるところはこの語り部に過度な期待はしないように、という一種の警告のようなものである。
つまらない話はこの辺で。
早速、あのひと達の話をするとしよう。
あたしはその日、結構遅い時間に帰路についているところで、何か特別な用事があったのか、と問われると別にそんなことはなく単純に今まで敬遠していた村上春樹を戯れに読んでみたら思いのほか熱中してしまったという下らない理由だった。
そんな訳で21時ぐらいの暗闇をあたしはてくてくと歩いているところだった。
いつもの通り道の途中にある静まり返ったいつもの公園を通過しようとしたその時、あたしはその異常に出くわした。
公園の頼りない街灯が2つの人影を映し出している。
踊っているようにも見えるけれど、戦っているようにも見える。
暗くてはっきりしないのがもどかしい。
普通の感性の持ち主ならば、見なかったことにして通り過ぎるか、警察でも呼んだのだろうが、あたしは傍観者なので、当然に野次馬根性全開で公園に侵入することにした。
接近するあたしに気づかない2つの影はダンスだかファイトだかを続けていて好都合。
ある程度近づいた刹那、その劇は突然に幕を閉じた。
一方の影が一方の影を押し倒しマウントをとり――
ザシュ
ザシュ
ザシュ
そんな、まるで何かを刺しているかのような音が響く。
あたしはスマートフォンのライトを人影に当たるように展開する。
映し出されたのは、あたしと同年代位の女の子。
私服のあたしとは違って頭のいい高校の制服――今時セーラー服なんてちょっと外したセンスが逆にいいと評判になっていた――で手には赤くペイントされた包丁。
ということは――
彼女はあたしに気づくと一瞬ほどフリーズした後に盛大な舌打ちをして闇の中に消えていった。
当然、マウントをとられていた方は血の海に沈んでいた。
余程、恨みを買っていたのだろうか、と邪推するほかないほど滅茶苦茶に刺されていて素人のあたしからみても助かりそうもないのは明白だった。
こちらは男の子で、彼女と違ってTシャツにジーパンという無難で無個性な出で立ちだった。
真っ白だったであろう彼のシャツは彼自身の血で赤く染められている。
普通の感性ならば救急車か警察でも呼ぶのだろうけれど、あたしは傍観者なので今度は消極的行動をおこすことに決めた。
つまり、見なかったことに決めてその場を後にした。
きっと、他の善良で模範的な一般市民の誰かが通報するなりなんなりしてくれるだろう。
あたしが行動を起こさなくたって他の誰かが後始末をしてくれるようにこの世はできているのだ。
無責任? そりゃそうさ。だってあたしは傍観者だもの。