繭の中に
「させるかぁッ!」
雄揮は寸前で気付き、剣を軸に身体を回転させる。
間髪入れず、飛んでくる右腕。
あと少し遅れていれば、間違いなく頭を飛ばされていただろう。
思わず冷や汗が浮かぶが、敵は予想外の反応に対応出来ていない。
雄揮はすかさず距離を置き、近くに転がる繭を盾にした。
標的を失った敵は辺りを見回すが、雄揮の姿はない。
すると、敵は両腕を地面に叩きつけ、反動を利用して空に上がった。
「しまった!」
──まさかあんな方法で上がるなんて……!
雄揮は歯噛みした。
これではこちらの位置はすぐにばれてしまう。
焦る雄揮に繭が動く。
「誰かいるの?」
聞けば、それは少年の声であった。
「無事なのか!?」
「まぁね。だけど、ちょっと苦しいや」
少年は生きている!
恐らくこの少年は行方不明となった、少年に違いない。
雄揮は繭に小声で話す。
「下がれるか?」
「うん……なんとか、ね」
繭が動き、前側が軽く浮いた。
あの場所を斬れば──!!
考えるより早く、雄揮は剣で繭を切り飛ばした。
「ふぅ……。助かったよ……ありがとう」
少年ははにかんだ笑みを浮かべ、自分の右手に握る杖を確認する。
何もなってないと解ると、繭から抜け出した。
「君、ひょっとして術師か?」
掲げる杖には赤い宝玉が埋められ、三日月の形をしていた。
調度、三日月の下にはまる赤い宝玉は丸く、三日月が満月に見える。
少年は杖を見上げ、軽そうに答えた。
「うん。ボクは魔法使いだよ。攻撃しか出来ないけどね」
「マジ!?じゃあ頼みがあるんだ」
「頼み?」
「ああ」
「いいよ。他ならぬお兄さんなら。なんてったって恩人だからね」