上空の行動劇
上空4000メートル。
白い雲も手を伸ばせば届く位置に、突如聞こえた観佳の肉声。
雄揮は叫んでみたが、辺りにそれらしい気配はない。
幻聴に違いない!
この高さに来る術を観佳は持ち合わせていないはずだ。
しかも距離からして、離れた位置にはいない。
幻聴と間違える自分に雄揮は不安を覚える。
先程から気にしないようにしていたが、観佳の所在は未だ特定不可を現しているのだ。
PRASは極めて高性能なため、人口AIで修復は自分から行う。
壊れてしまうのは、全くと言っていいほどあり得ないのだ。
それに、上空の風圧で飛ばされそうになっているのに、PRASに負傷した様子はない。
さすが次世代高性能AI搭載だけあって、かなり頑丈だ。
「雄揮───!!」
また聞こえた。
しかも距離は先程より遥かに近い!
近距離にいるのだろうか?
しかし、どうやったら上空に来れるのか不明だ。
「逃げて───!!」
やはり幻聴ではなかった!
観佳は何やら黒い物体に乗り、真っ直ぐ雄揮に向かって飛んでいたのだ。
「観佳!?」
「早く逃げて───!!!」
激突まで、もう時間はない。
雄揮は祈るように黒い物体を待ち受けた。
真っ向から受ける気だ!
観佳は信じがたい物を見るように、目を見開いた。
「行くぞ──!」
雄揮は眼前に観佳を乗せた物体を見据えたまま、剣の鍔を蹴りつけ、垂直に飛び上がった。
そのまま空中できりもみ回転を起こし、風圧によって剣がある位置から離されてしまっていた。
「雄揮!!」
すでに遥か後方にいる、雄揮に向かって必死に観佳は叫んだ。
あのままでは、雄揮は剣を握れない!
恐怖から顔を背けようとした時、観佳はハッとなる。
それは前回、ワイヤーみたいに伸びる白い紐だ。
前に雄揮が言った言葉を思い出す。
素材自体は布と同じらしく、ワイヤーとして機能しない時は矢でも貫けるそうだ。
あれを狙えば──!
観佳は自分の矢に手をかけ、汗で滑りそうな弓を握った。
「く……っ!風圧で狙いが……」
カタカタ揺れる弓矢。
風圧が邪魔して真っ直ぐに狙えない。
考える暇なく、雄揮は落下している。
観佳は唇を噛みしめ、体勢を低く構えた。