見えない敵
気の乱れが一気に形勢を逆転してしまう。
雄揮も観佳もそれは嫌という程、痛感している。
左右を最大限に警戒し、繭を背に、気配を伺う。
すると、下がり過ぎたのか、巨大な繭に軽くぶつかってしまった。
「おっと」
ゴロンと転がった繭は軽いらしく、すぐに動いてしまう。
雄揮が触ってみると、繭は綿で出来ているみたいだ。
だが、この繭は魔物の物なのか判断出来ない。
中身は一切見えなく、中に何がいるのか不明だ。
すぐさま、繭から気を反らし、再び左右を伺う。
動作を繰り返していると、ふいに気付いた。
「まてよ……」
今までは地上だったが、敵はどころから来るか解らない。
地面から来るかもしれないのだ。
雄揮は地面に目を落とすと、異変に気付いた。
「な……なんだこの影は!?」
眼下に広がる巨大な影は繭より大きく、雄揮どころか、繭も簡単に潰せる程の大きさだった。
刹那──
「あぶねぇ!」
間一髪、雄揮は地面を蹴り繭から離れた位置に後退った。
雄揮を襲ったのは巨大な真空波だ。
真空波は雄揮から反れ、繭を傷つけることなく、辺りに設置された信号機、標識を無惨に切り刻み、粉微塵に散らばった。
もし直撃されたら、大怪我では済まない。
下手すれば、待っているのは死だ。
しかし、雄揮は飛び散った破片を前に体勢を崩してしまった。
体勢を戻す間もなく、襲い掛かる第二波。
「くそッ!」
雄揮は身体をひねった反動で自分の体勢を整え、自分の剣を盾に、真空波を防いだ、かのように見えた。
だが真空波の威力は予想以上に凄まじいもので、防いだ体勢のまま、雄揮は遥か1キロ離れた繭に全身を激突させてしまった。
「がはっ!」
飛び散る鮮血、広がる痛みに剣を握れなくなり、雄揮は地面に崩れ落ちた。
そして最大のミスに気付く。
敵の姿を見ていなかったのだ。