2度目のピンチ
「アルリスさん、少し良いですか?」
「ユウ殿か。無事で何よりだ。どうかしたか?」
「はい、少し身体を動かしておきたいので、モンスターがいないかと思いまして。」
「了解した。少し待ってくれ。」
アルリスはそう言うと、懐から直径5cm程の水晶玉を取り出した。
「各員、周辺にモンスターはいるか?」
アルリスが水晶玉に向かってそう言うと、チカチカ光り出した。
「こちら東側。前方にストーンゴーレムらしき巨岩を確認。現在、動きはありません。」
「こちら南側。少し離れた場所にオークを数匹捕捉しています。」
「こちら西側。現在、モンスターは確認されていません。」
水晶玉から声が聞こえてくる。
通信魔道具のようだ。
「オークとストーンゴーレムがいるらしい。ユウ殿、どちらにする?」
体に慣れていない状態で知らないモンスターと戦うのは気が引けるので、オークにする。
「オークの方に行ってきます。」
「わかった。気を付けてな。」
アルリスから場所を教えてもらい、オークの所まで向かう。
ついでに、少し走ってみることにする。
幸いここは先が見えないほどの空洞になっているので、壁にぶつかることはないだろう。
初めて狂化した時は、思いっきり地を蹴ったせいで目が追いつかなかったので、今回は爪先で軽く蹴る程度に留めておく。
「それじゃ、行ってきます。」
アルリスに一言残して、地を蹴る。
次の瞬間、南側に居たと思われる騎士達の姿が見えた。
辛うじて反応できたが、本気で走ったら大変なことになっていただろう。
「あ、どうも」
「な?!一体どこから…」
「驚かせてすみません。こちらでオークを捕捉したと聞いたので、身体を慣らすために少し戦ってきます。」
「え、えぇ、了解しました。オークはこの先に5匹確認されています。お気を付けて。」
「ありがとうございます。」
お礼の言葉を残して、再度爪先で軽く地を蹴る。
瞬く間に景色が変わり、オークを捕捉する。
歩いているのが3匹、座っているのが1匹、寝ているのが1匹、少しずつ離れた場所にいた。
「じゃあ、まずは寝てるやつから…」
走った勢いそのままに、寝ているオークの横腹に爪先で蹴りを入れる。
すると、蹴りが当たったオークは弾け飛び、その先の地面に衝撃波が走る。
その衝撃波は、地面に跡を残しながら100m程飛んで、消えた。
「うえぇ…血が……。この服、捨てるしかないか…。」
オークを蹴った瞬間、その場で弾けたので、返り血を大量に浴びてしまった。
今すぐ全身を洗い流したい。
『マスター、残りのオーク達がこちらに気付いたようです。』
「まぁこれだけ騒いだら気付くよね。」
せっかくなので、防御力も試したい。少し怖いが、オークの攻撃を受けてみることにする。
「ヘルプさん、オークの攻撃受けてみても大丈夫かな?」
『問題ありません。ただ、ダメージはありませんが、衝撃は今まで通りなので、マスターの体格だと吹き飛ぶと思われます。お気を付けください。』
「了解〜」
そうこうしてるうちに、歩いていたオーク達がゆっくり近付いて来ている。
座っていたオークはこちらに興味がないようで、動く様子がない。
「ブヒィィィィイイイ!!」
近付いてくるオークの内の1匹が棍棒を振り上げ、鳴き声をあげながら走ってくる。
相変わらず鳴き声がうるさい…。
今回はあえて防御せず、攻撃を受けてみる。
ヘルプさんの話では吹き飛ぶらしいので、受身を取れるようにしておく。
オークは10m程の所で、棍棒を両手で持ち、真上から振り下ろしてきた。
棍棒はそのまま頭に当たり、真ん中から真っ二つに折れてしまった。
「ほんとに痛くないな。…そろそろガルムさんの所に加勢しに行かなきゃ。」
既に意識が戻ってから5分以上経過している。
防御力も試し終わったので、残りのオーク達を掃除して、アテナの所に戻った。
「戻りました。」
「?!いつの間に……。随分早かったですね?」
「足が速くなりましたので。」
「そうですか…。ガルムさんはおそらく、何階層か下にいると思われます。」
「そうなんですか?」
「はい。と言うのも、ユウさんが目覚める前に爆音と大きな揺れがありました。
ガルムさんはパワータイプの方なので、迷宮の床を破壊する事も出来るでしょう。」
「つまり、ガルムさんの攻撃で床を破壊して、もっと下の層に落ちたって事ですか?」
「おそらく。どこまで落ちたのかは分かりませんが、降りる際は気を付けてください。」
「わかりました。では、行ってきます。」
下の層に続く階段を降りると、大きな穴が見えた。
覗き込んでも、底が見えない。
「ほんとに穴空いてる…。」
わざわざ階段を使うのも馬鹿らしいので、この穴に入る事にする。
しかし、深過ぎて下に何があるか分からない。
「ヘルプさん、ここ降りて大丈夫かな?」
『絶対に大丈夫とは言いきれません。』
「だよねー…。しょうがないか。…そうだ、ヘルプさん、名前決めていい?」
『名前、ですか?』
「うん。人格を獲得したって事は、1つの個体として存在が確立されたってことでしょ?
だから、名前あった方が親しみやすいなって思って。」
『なるほど。名前を頂けるとは思ってもいませんでした。ありがたく頂戴します。』
「おっけー。じゃあ、ヘルプから取ってヘルにしよう。」
『個体名ヘル。登録しました。』
「よし、じゃあ行くよ!」
そのまま目の前の穴に飛び込んだ。
〜ガルム〜
「ちっ、参ったなこりゃ…」
「いつまで逃げ回るつもりだ?
貴様の攻撃は俺には通じない。さっさと諦めたらどうだ?」
「はっ!てめぇの攻撃も俺には当たってねえだろうが。
どれだけ強かろうが当たらなきゃ意味ねえよ。」
厄災の動きは速いが、難なく回避出来る。
かと言って反撃しても、生半可な攻撃では傷一つ付かない。
お互い決め手がなく、膠着状態が続いている所に突然、上から黒い何かが降ってきた。
それは、地面に衝突し、盛大に土煙を上げたかと思うと、ゆっくりと立ち上がった。
「な、なんだァ?」
「…おー痛くない。それにしても高かったなぁ〜。」
「!なぜ、お前が生きてる?さっき殺したはずだ。」
厄災の声を聞いて、もしやと思っていると、その人影から声が掛かった。
「あ、ガルムさん。大丈夫でしたか?」
土煙で見えないが、最近よく聞いている声だ。
「ユウ…か。ったく…。気の抜けたこと言うんじゃねぇよ。
俺があんな奴に負ける訳ねぇだろうが。」
嘘は言っていない。
負けはしないが、勝てもしないだけだ。
「それで、厄災はどこに?」
その時、ユウの背後から厄災が近付き、腕を大きな斧に変えて振りかぶっているのが見えた。
「馬鹿!後ろだ!!」
叫びつつ、なんとか庇おうと走り出すが、厄災の斧は既に振り下ろされ始めている。
「お前だけは絶対に逃がさない。次は確実に絶命させる。」
間に合わない。
そのまま、斧は振り下ろされた。
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