8話 天骸の予知竜リンリ
『我らが【天骸】へようこそ、【星遺物】の識者よ』
改めて名乗ってくれた【天骸を癒やす緋竜キュアーレス】。
彼の竜は、我々が【竜の巣】と呼ぶこの広大な【星遺物】を【天骸】と呼んだ。
いや、それは緋竜キュアーレスだけでなく他の竜たちも一様にそう口にしている。
『我らが【天骸】に、生きた骸などいらぬ』
『早計なり』
『キュアよ、この者が先ほどの稚児らとは異なると?』
『我らが【天骸】に置いてもよいと、そう考えるか?』
『キュアも既知であろう。稚児の児戯により失った同胞は、そなたの癒しですら回帰不能である』
大空に浮かぶ巨大なシャンデリアの一画、塔のごとき砂時計の頂上。
そこでは圧巻の光景が広がっていた。
そう、私を5匹の竜が取り囲んでいるのだ。
『この者を捨て置くのは危険だ』
『喰らうか、【天骸】からの追放を提案する』
なぜ竜たちがここを【天骸】と呼ぶのか。
この地は天の骸、死骸とでも言うのだろうか?
それに、どのような原理で竜たちのささやく思念を私と共有しているのかも気になる。
『待て、この者の思念……感情は興味深いぞ。我らの高圧的な態度を見ても、一切の敵意が視えぬ。それどころか、ぶれない知的好奇心がひどく刺激されているような……静かにたゆたう水面に、大きな波紋を生む者なり』
『だろうよ、リンリ』
『む……【天骸の予知竜リンリ】もキュアと意見を同じとするか?』
『ならば、一考の余地ありか?』
竜たちに対し、本能の奥底から芽生える恐怖心はある。人と竜では生物的な格が違いすぎると、どんな強者であろうとも竜を目の前にすれば、誰もが胸に大きな畏怖を刻み付けられるだろう。
だが、私はそれ以上に、不思議な同胞意識を感じずにはいられなかった。
なにせ私はすでに見てしまってるのだ。
旧人類が遺した【星遺物】に興味を示す竜を。
さらには【星遺物】を大切に扱っているであろう言動まで聞いている。使い方はわからねど、【天骸を癒やす緋竜キュアーレス】は確かに【星遺物】を『壊さず、丁重に扱わなければ命はないと思え』と私に言っていたのだ。
「私も……さきほどの神人たちに大切な存在を奪われた……だから、奴らとはむしろ敵対関係にあると言ってもいい」
敵の敵は友である。
そんな単純な理論から説得を始める。
「私はあなた方に害を及ぼす行為はしないと誓う。私は【星遺物】の研究がしたいだけであり、その目的が……彼女だ」
竜たちが俺の発言に注目するなか、俺は氷漬けにされたメモリアの頭部を掲げる。
「さきほどの神人たちに殺された者だ。彼女を復活させるために、ひとまずは【星遺物】の研究を役立てたいと思っている」
『リンリ、どうだ?』
『……この者から嘘は視えない。暗き海よりも深い悲しみと、地に眠る太陽の灼熱より熱い決意が視える』
『みな、この者は我の前で【星遺物】の使い方も説明してくれたぞ。ほれ、これはセンプウキという物だそうだ。【星遺物】の識者が扱えば、センプウキは紫魔法【風妖精の囁き】を発動させた』
『なに……? キュアーレス、それは真か?』
『我々の根源に繋がる【星遺物】の扱いを知る者だと……?』
『貴重なり』
『真実ならば、【高龗神】様と【闇龗神】様に会わせねばなるまい』
神、と名が出たことで警戒心が一気に上がる。
だが、竜たちからは非常に深い敬意のこもった視線を向けられてしまい、私はどう反応すればいいのか困惑してしまう。
『【星遺物】の識者よ、数々の非礼をどうか許されよ』
『我々の不徳がなした事、深く陳謝する』
『どうか、【天骸】の柔い風に遺恨は流していただきたく、お願い申す』
『どうか、【天骸】に降る雨水に過ちは流していただきたく、お願い申す』
4匹の竜が揃ってちっぽけな人間に、私に頭を垂れる図は……予想外の事態である。
『【星遺物】の識者よ。どうか我々の神々に会っていただきたい。さすれば【天骸】の滞在許可もおのずとおりよう』
だが、断る!
とは言い出せない雰囲気だった。
●カード紹介●
【生物カード:天骸の予知竜リンリ】
【タイプ:天骸竜・雨】
【コスト:神力2800 or 魔力(鬼力)280年】
【サイズ:6】
【生命力1000】
【筋力700】
【魔力(鬼力)3600年】
【頑丈750】
【速度330】
【権能:『倫理を覗く者』『竜叙詩』『未来を貫く竜眼』】
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