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7話 天骸を癒やす緋竜


『再度、問う。そなたは奴らの同族か?』


 緋色の巨竜にそう問われた私は、パニック状態に陥る寸前でどうにか踏みとどまる。

 この竜が初めから私を殺そうとしていたのであれば、早々に一潰しで終わった話。それをわざわざ、私に話しかけてきたのは何故か。

 神人(チルドレン)よりも対話の余地がある証だ。


 落ち着くのだ、私。

 生存する分岐(ルート)を見逃すな。


「あんな奴らとッ……私は同族に見えるかもしれない……だが、断る!」

『ほう、そなたは人間にあらず、か』


「せ、正確には……属する勢力が違う、が正しい」

『ならば人間。そなたはなぜ、ここにいる?』


「それは……」


 正直に言うべきか逡巡し、私はこの巨竜が見せた態度に一縷の望みを賭けてみる。


「古代の人々が遺した、【星遺物(アーティファクト)】を研究するために……」


 この竜は先ほど私が見せた事象、肉体の完全回帰を目にした際に『興味深い』と言っていた。

 その観点から、この竜もおそらく……神々の()を求める神人(チルドレン)とは違い、人類の()を求める同類なのだと、わずかな可能性に手を伸ばす。


「私は【失伝魔法(アーティスト)】を解き明かす者、錬星術士のレイだ」


『【星遺物】、【遺物魔法】を研究する者であるか。ならば、証明してみせよ』


「証明……?」


『偶然にも我らが竜郷には、そなたらが【星遺物(アーティファクト)】と呼ぶ代物が岩のごとくコロコロ転がっておる。しかし我らはその使い方をあずかり知らぬ』


「【星遺物】がゴロゴロ……たくさんあると」


(しか)り。そなたが【星遺物】の識者であるなら、ほれ』


 巨竜が指し示したのは宙にフワフワと浮く【星遺物】だった。どのような魔法でその現象が起きているかは定かではないが、おそらくはこの緋竜の力だろう。

 私の目の前でその【星遺物】が静止し、ゆっくりと着地する。


『これの使い方を示して見せよ。さすればそなたが、あの騒がしい稚児(ちご)と同類ではないと信じてやろう。無論、壊さず、丁重に扱わなければ命はないと思え』


「これは――」


 ボタンが5つ、ダイヤル式の調節つまみも1つ、そして長いコードの先端には電鬼を必要とするプラグの形状。そして、スッと伸びる上部は円形の外装に包まれたプロペラ式の透明な羽が5枚。


「少し待ってくれ」


 周辺を急いで見渡し、目的の物を探す。

 私のひしゃげた脚の残骸、散らばる私の星遺物……切り飛ばされた右腕は見当たらず……。


 おお、あったぞ、よかった。

 バーンズに腹パンをおみまいされた時に吹き飛んでしまったと思っていたリュックへと近づき、携帯用として同行してもらっていた電鬼(でんき)を取り出す。

 どうやら彼も無事だったようで、ほっと胸をなでおろす。


「ギギギ……」


 掌サイズの小鬼(インプ)は怯えているのか全身をぶるぶると震わせ、不安気な目つきで私を見てくる。おそらく私が殴られた時に、かなりの衝撃をリュックも受けていたのだろうか、恐怖してしまうのも無理はない。しかし、ゆっくりと頭部の一角をなでてやれば電鬼は落ち着きを見せ始める。


「キキキキッ?」

「すこし、君のちからを貸しておくれ」


 私は電鬼を【星遺物】の傍まで運び、ポケットに入れておいた【渦巻く鉄枝(コイル)】を一本食べさせてやる。一口でパクリと完食した電鬼を見て、その頭角を指で素早くこすり始めてやる。


「キキッ!」


 嬉しそうに微笑む電鬼。

 万人からすれば凶悪そうな笑みに見えても、私からすれば腹黒い人間などよりよっぽど愛らしい笑みだ。

 なんて感想を抱いていれば、電鬼の一角がギュルルルッと高速回転して紫電が走る。

 気付いた時にはバチリと音が鳴り、私は痛みを覚えてすぐに手を引っ込めた。


「こっちに、君の力を入れてほしい」


 私は【星遺物】のコードの先端を示せば、電鬼が発する小さな稲妻は順調に吸い込まれてゆく。

 本来、電力はコイルの中で磁石を回すと発生するが……どのような仕組みで発電が行われるかは謎だが、電鬼(でんき)は金属などを食すとかなりの量の電力を体内に貯蓄できる。それらは角から放電され、こちらの言葉に応じて送電量を調整してくれる。

 無論、それなりの信頼関係を築いておくのが必要不可欠だが。


「よし……これで弱のボタンを押せば……」


 送電され続けているのを確認して、改めてボタンを押す。

 すると5枚のプロペラにも似た羽は回転し、ついには風を生んだ。


「これはおそらく、【旋風鬼(せんぷうき)】といって電鬼を活用した【星遺物(アーティファクト)】の1つだろう。旧式タイプだが、暑い時に涼を取るための物であるはずだ」


『なんと……驚愕。紫魔法、【風妖精の囁き(ピクシーウィンド)】と同じようではないか』


 巨竜の感心は鼻息となり台風並みの豪風を起こす。

 私も電鬼も、【旋風鬼】すらも吹き飛ばしそうな勢いだったが、どうにか電鬼を胸元に引き寄せては踏ん張り堪えた。

【星遺物】が起こした風なんてちっぽけだと言わんばかりの規模感に慄きそうになるが、脳内に響いてきた巨竜の声音は決して威圧的なものではなかった。


『おお。これは失礼を、つい嬉しさのあまり興奮してしまった。あぁ、稚児(ちご)と同類だと疑った我を許されよ、【星遺物(アーティファクト)】の識者(しきしゃ)よ』


 そういって巨竜は改めて(こうべ)を垂れては、私に敬意を示してくれる。


『我は雨語(あまがた)りが眷属、【天骸(てんがい)(いや)緋竜(ひりゅう)キュアーレス】という』


 ()の竜が名乗りでると、不意に暗雲が立ち込めたかのように周囲に暗がりが広がった。

 影が落ちた、そうとっさに判断した私は反射的に上を見る。

 ……何てことだろう。頭上には暴風と共に、何対もの大きな翼がはためいるではないか。


『同胞も幾匹か来たようだ』


天骸(てんがい)を癒す緋竜キュアーレス】のそんな呟きが漏れれば、強い突風が巻き起こる。

 束の間の嵐、そして地震と共に飛来したのは4匹の竜だった。





●カード紹介●


生物(フレンド)カード:天骸を癒す緋竜キュアーレス】

【タイプ:天骸竜・雨】


【コスト:神力3000 or 魔力(鬼力)300年】

【サイズ:6】


生命力(ライフ)1200】

頑丈(ガード)900】

筋力(パワー)800】

魔力(マギ)(鬼力)3200年】

速度(スピード)240】


権能(スキル):『傷を失う者(キュアーレス)』『治癒を語る息吹(いぶ)き』『竜酸の雨』】





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