12話 アーク・ビブリオンのミス
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【英雄神アキレリア帝国】の神都、【剣の盤城:神都アキレリス】の一画。
【鍔の城下町】の最上階層に、慌てて駆け込む兵士の姿があった。
「アーク様! まずいことになりました……!」
「あぁーん? 俺様にどんな物語を聞かせてくれるんだい?」
「アーク様がお治めになられる【武を語る街ストリカ】が、その……滅びました」
「……なに?」
英雄神アキレリアより神血を授かり、国内では30位内の武力を持つ強者、【第二十二血位アーク・ビブリオン】が放心するに値する事態を耳にする。
「俺様の、街が滅んだ、だと?」
「はい。報告によれば夜の太陽に呑み込まれたと……」
伝令の兵はよほど慌てていたのか、全身から汗を滴らせていた。肩で息をしていた兵士が落ち付きを取り戻してきた頃、【血位者】の止まっていた思考が再び動きだす。
「夜の太陽だって……? く、詳しく……物語ってくれるかなあ?」
「はい。内部事情を知らぬ者からすれば、あれは夜の太陽だと慄く者が多くいます。ただ、都市をまるごと破壊した炎は……アーク様のご命令で、も、元錬星術士レイの研究所から回収しておいた『祈りの涙』の暴発かと……」
「なに……?」
「はい。アーク様が、その……【武を語る街ストリカ】の武力強化のためと仰り、使用方法が不明であったり、形状が違えと『祈りの涙』と思しき物は全て回収し、持ち帰るようご命令されたのが数日前です。そして昨夜、無事に『祈りの涙』が我々の街に着いたとの報告を受けています」
兵士の説明は、この事件は聞き方を変えればアーク本人に原因があると言っているようなものである。
普段であれば【血位者】であるアークに対し、このような言葉を絶対に選ばない兵士であるが、この時ばかりはアークに対する悪感情が国の常識よりも上回ったのだ。なぜなら、この兵士の嫁と子は【武を語る街ストリカ】に住んでいたのだから。
「おそらくは使用方法不明の物が、何かの契機に爆発したのかと……それに伴い、他の『祈りの涙』も誘爆し【武を語る街ストリカ】は跡形もなく……」
暗にお前のせいだぞ、と示唆する兵士に【血位者】であるアークは全身をわなわなと震わせる。彼が治める【武を語る街ストリカ】は主に伝承や噂を国内へと広め、世論を統制する役割を担っている都市でもあった。
端的に言えば【英雄神アキレリア】とその血を継ぐ【血位者】の偉大性を民に広める発祥地でもある。
「俺様の街が……俺様の偉大さを物語る街が……」
アークは常日頃から自分の治める街が、伝承広告の役割しか担っていない事に不満を感じていた。自分が治める街であればもっと重要性の高い文化を誇れるはずだと。そして、この国の伝説を語る街であるならば、それ相応の待遇をされても良いと。そんな意識はやがて自分へも適用されるべきだと思い始める。
【第二十二血位】などよりも、自分にはもっとふさわしい高位の立場が下賜されるべきであると。周囲の【血位者】たちも、もっと自分に敬意を払うべきだと。
「俺様の街が滅んだのは、レイの奴のせいだ……あいつがしっかり星遺物を管理していないから」
錬星術士レイ。
【血位者】ですらないリヒテス様の腰巾着が、自分より人々に称賛されるようになったのはいつ頃からだったか。
そんな事実を到底受け入れることのできなかった彼は、大規模な【植物人間】掃討戦において彼の名声を地に落とす蛮行へと踏み切ったのだ。
「いや、あのペテン師レイなどを登用し、傍に置いたリヒテス様こそが戦犯なのだ」
そして、その嫉妬の対象は自らよりも上位に座す全ての【血位者】にも向けられていた。
「ひとまずは……【英雄神アキレリア】様にご報告をせねば……」
数日後、【第二十二血位アーク・ビブリオン】は【英雄神アキレリア】に【第三十二血位】へと降格を告げられる。
その宣告に居合わせた【血位者】が彼の様子をこう語った。
『アークが発狂するのかと、懸念するほどだったよ。なにせ英雄神様の御前でありながら、心底悔しそうに顔を歪めていたからな』