11話 神々と人類の終末戦争
【仮想紙幣の決闘者】。
まだ触り始めて時間は浅いものの、私は確信を持って言える。
これはあらゆる神々を凌駕する可能性がある神罰兵器であると。なぜなら竜たちの前で見せた奇跡にも等しい現象がそれを如実に物語っているからだ。
あらゆる事象、物質、あまつさえ相手の同意が得られれば生命体すらも『素材化』できる。つまり、死が確定した者をその命の灯が消えゆく前にある意味救済できるのだ。そして素材カードとなった者を融合して、新たなカードとして生を与える。
【仮想紙幣の決闘者】を起動しながら、改めてカードの種類を確認する。
:素材カード……自身のステータス強化に用いる or カード生成とカード強化に用いる:
:魔法カード……事象の発現:
:物質カード……装備や物の召喚:
:領域カード……特定の地形を具現化・召喚し、領域ごと侵食する:
:生物カード……生命体の召喚:
なんとも可能性に満ち溢れている。
「しっかりと使いこなせば……メリルの蘇生も不可能ではないはず」
だが、肝心なのはデッキと手札だ。
初期の状態でデッキは20枚あったが、今では19枚に減っている。どうやら、物質カードは一度消費してしまえば消えてしまうようだ。対して、魔法カードと領域カードは条件さえ満たせれば何度でも使用可能、また生物カードに関しても同様で、その生物カードが死亡しない限り何度も再召喚は可能だそうだ。
「デッキから手札を5枚引いた場合、再度引き直しができるのは12時間後か」
そしてもちろんカードを1枚発動して消費しなければ、次のカードをデッキから戦力化できない。
しかも使用したカードは24時間、つまり1日は修復という状態になりデッキから除外されてしまうようだ。
さて、初期の物質カードとして所持していた【人体回帰の魔剤】はデッキリストを見ればあと2枚残っている。これは脳が破損してさえいなければ万能の回復ポーションとなる。
だが、氷の中にあったメモリアの頭部は見るからに一部が抉れ失われていた。
だから【人体回帰の魔剤】を使用しても命までは吹き返せないだろう。下手をすれば虚ろな人形だけの存在となり果ててしまう可能性もある。
「だが、希望はある」
ここにはありとあらゆる星遺物が眠っているのだ。また貴重な素材や、竜の協力を得られれば強大な素材カードだって作れよう。
研究するにはここ以上に適した場所はないはず。
問題は……メモリアの首を覆っている氷が溶けてしまえば、彼女の頭部が腐ってしまう。
それだけはどうにか避けたかったので、ひとまずは彼女の頭部を素材化しておく。
【素材カード:追憶と竜鳴の生首】
『【虹の奏竜メロディーン】と遊牧民の系譜、【羊角の娘】の生首』
ん?
メモリアの遠い祖先には【虹の奏竜メロディーン】といった竜種がいたのか?
そんな疑問を覚えていると【風水龍タカオカミ】が尋ねてきた。
『リンリから聞いてはいるが……その娘が、レイ殿が亡くした大切な者か』
『ううーむ、その小娘はどことなく懐かしき匂いがする。あれはたしか……呑気で陽気な奴じゃったの』
【暴水龍クラオカミ】の気になる発言に、俺は思わず問いかけてしまう。
「【虹の奏竜メロディーン】に聞き覚えがあったりしますか?」
『おおおお、そうだそうだ。メロディーンのやつじゃ』
『あやつはめっぽう曲を奏で歌を好む変わった竜での』
『奴はもっと様々な歌に触れたいと言って、この【天骸】を離れての。あれは何千年前だ?』
『正確にはわからぬ。ただ、どこぞの人間と愛し合ったと風たちが囁いてたの』
『メロディーンと同じく、歌と詩を愛した遊牧民の奴らじゃったかの』
『レイ殿。頭に角のある人族は、大概が竜族の末裔であるぞ』
『他にも人間と交配したがる変わり竜はチラホラいたからの』
サラッととんでもない事実をこぼす二柱に驚愕せざるを得ない。
角のある人種は【羊角の娘】の他にも数多の種族が存在する。そのほとんどが竜の血を継いでるとは、世紀の大発見ではなかろうか。
思えばメモリアの歌声も素晴らしく綺麗だと、常々感心していたが……なるほど【虹の奏竜メロディーン】の力の一部を継承していたのかもしれないな。
これほど貴重な情報をさらりと出す二柱に感謝しつつ、この千載一遇のチャンスを逃す手はないと判断する。
私は少しでもメモリア蘇生の可能性を上げるために、とある交渉をしようと踏み切った。
「二柱にご提案があります」
『なんじゃ』
『申してみよ』
「私がここに滞在中、この【天骸】にある様々な【星遺物】の使用方法やその効能を伝授いたします。もちろん、私のわかりうる範囲内で、ですが」
『それは願ったり叶ったりだが』
「また、【天骸】の所々を見る限り、老朽化が進んでいるようです。私の力が及ぶなら修復をしていけたらと」
『ううーむ。それで、そなたが見返りとして我々に望むものは?』
「あなた方の歴史と、あなた方との友情を」
『おもしろいのう』
『我々が歩みし歴史を語れと』
『竜種以外から友情を求められたのは何百年ぶりかのう』
カッカッカッと二柱の竜神は高らかに笑った。
それから喉をグルルルウゥゥと地鳴りの如き音量で鳴らしては、その強靭な顎をほころばす。
『よいぞ。友誼を交わそうではないか』
『このような風情のある客は久しぶりよの』
こうして私たちは自己紹介がてら、互いの成り立ちなどを話し始めた。
私からの紹介が終れば、二柱から『レイ殿の聞きたいことから答えよう』と言われたので、まずはこの【竜の巣】……【天骸】について聞いてみる。
「この【天骸】とは何ですか?」
『ううーむ。ひらたく言えば天空の墓所じゃな』
『天にあらゆる骸を集め、それらを魔力として【円環】し、竜を生成するのじゃ』
「なるほど」
スケールが大きすぎて気付きづらいが、『世界の掃除機』と言った役割も果たしていそうだな。
『まあ、それは建前じゃの』
『天より落ちた骸……それがここじゃ』
二柱の竜神は蒼穹のさらなる高み、遥か上空を見渡しながらしみじみと呟く。
空の蒼の奥にはうっすらと地表が見えるのを確認し、私はなるほどと無言で頷く。
『世界の神々と、世界の人間が争った大戦。その戦時中に、この【天骸】は建造されたと認識している』
『【魔導帝国日本】のお歴々が、【高龗神】と【闇龗神】と協力しての』
『雨を語り、雨を喰らい、そして雨を吹く。三つの口を持つ神龍、【高龗神】と【闇龗神】じゃ』
『元々は【教都】に祀られていた神々じゃが、戦中は【北界導】の守護神として活躍したそうな』
「日本古来より祀られていた水を司る神々が……人間の味方を……?」
『神だって様々な考えを持つものじゃ』
『わしらは【高龗神】と【闇龗神】の力を絶大に引き継いだ龍である、というだけでいわば眷属のようなものじゃな』
「では、その二柱の神々は今どこに?」
『あずかり知らぬ。先代の【風水龍タカノカミ】は【天骸】を襲撃してきた神々との攻防で亡くなってしまっての。わしも4代目であるがゆえに詳しい事情は継承できなかったのじゃ』
『この【天骸】がいくら【円環】で散っていった竜の肉体を活用し、新たな竜を生んだとしても……完全には引き継がれぬ』
『故に戦争の行方がどうなったかもわからぬ。じゃが、まあ……この世界の有り様を見れば、人類は敗北したようじゃの』
【魔導帝国日本】、そして神々と全人類の闘争。
それが何千前の出来事だったのか、今となっては不明である。
しかし、その軌跡を辿ることで、必ずや人間にとって新たな可能性が見いだせるのは事実。
「今や人間は神々を盲目的に信じ、奴隷人形のように従うばかりとなり果てました」
神々は自身の脅威的な神力を駆使して、人間にその力を分配する。
それに感謝した人々は主神と崇め、主神が望むままに布教活動という名の侵略戦争を繰り返している。それぞれが違う神を信じるがゆえに、己が信じる神の力を広げるために。
神々の勢力争い、その代理戦争を人間たちが行っているに等しい。
「だけどまだ、こうして【星遺物】は残っている。そして、人類の真の叡智と、人類の真の友が存在する以上、希望の灯は消えないはずです」
『こやつ……話せる口じゃの』
『なかなかに面白い人間じゃ』
私は二柱の竜神と、夜が明けるまで喋り倒した。
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