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私(たち)だけ
あの子には変な癖がある。
ひとりで廊下を歩いている時、
友達との会話がふと途切れた時、
突然振り返るのだ。
まるで、なにかに呼ばれたみたいに。
そして数秒空中を見つめる。
そのなにかに返事をしているかのように。
たぶん、気づいているのは私だけ。
あの子を見ている私だけが気づいた、
特別な、癖。
はじめは見つけられたこと自体が嬉しかった。
けれど次第に、それでは足りなくなった。
あの子が見ているものを、
私も見たくなった。
あの子の特別を共有して、
あの子の特別になりたかった。
私があの子を見ているように、
あの子にも、見ていてほしかった。
だから、私はあの子を見続けた。
あの子が振り向いてくれるまで。