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悪の臭気 4

「・・・まだお前が生きているとは思わなかった」


 ウルフの言葉に、ゼロと呼ばれた青年は爽やかに笑い声を上げる。


「ハハハッ、酷いなナンバー4・・・いや、ウルフは。まあ、仕方がないか。最後に君と会った時、ボクは死にかけだったからね」


「・・・・・・それだけじゃない・・・俺が驚いているのは、こんな所にお前が居るって事それ自体にだよ」


 ウルフの鋭い眼光と、ゼロの柔らかな視線が交差する。


「ふふっ、君と同じだよウルフ。ワタシもあそこから脱走してきたんだ」


「お前が?」


「驚いているねウルフ。確かに俺は君ほど強くない。もちろんボク一人の力じゃあ脱走なんてできなかったよ」


「他にも一緒に脱走した奴がいるのか? ナンバー3か、それとも6・・・」


 ウルフの言葉を遮るようにゼロが口を開く。


「全員だ」


「・・・・・・そんな馬鹿な。全員が脱走なんてしたら、奴等黙っていないぞ?」


 そう言ったウルフの声は、少し震えていた。ウルフほどの豪のものが震えるほどの相手、しかしゼロはゾッとするような狂気に満ちた笑みを浮かべて返答をする。


「それは心配しなくてもいいんじゃないかな。だってもうあそこは壊滅したんだから」


「・・・お前達がやったのか?」


 ウルフの問いに、ゼロはゆっくりと首を横に振った。


「悪いけど、この先は話せないな。それに今日はこんな話をするために来たんじゃないでしょ?」


 その通りだ。ウルフがこの場所に来たのには理由があった。


「・・・・・・先日、警察の部隊が失踪したそうだ。ゼロ、お前は何か知っているのか?」


「回りくどいな、ウルフは。この場所にワタシが居る時点で薄々気がついているんでしょ? ボクだよ。犯人はこのボクだ」


 次の瞬間、ウルフの体が跳ね上がるように動き、あっと言う間にゼロの胸ぐらを掴み上げると、その華奢な体を壁に押しつけた。


「やめてくれよウルフ。君みたいな強い奴に本気になられると、俺なんて一瞬で挽肉にされちゃうからさ」


「・・・わざわざこの俺の前で悪事の告白をしたんだ。こうなることも覚悟の上なのだろう?」


 ウルフのその言葉に、ゼロは不満げな表情を浮かべる。


「悪事・・・ねえ。・・・・・・なあ、ナンバー4、お前にとっての ”悪” って何だい?」


 突然の問いに、ウルフは答える事ができなかった。


 ゼロの話は続く。


「法律に背く事? それとも人を害すること? お前にとっての悪の定義って何なのさ」


「・・・臭いだ。鼻の曲がるような悪の臭気。俺にとってそれは一秒たりとも我慢できるものではない」


 不倶戴天。


 ウルフにとって悪とは、存在することすら我慢が出来ない敵であった。


「なるほどなるほど・・・それじゃあ質問だウルフ。今のワタシから、悪の臭いはするのかな?」


 問われて驚愕する。


 確かにゼロから悪の臭気はしなかった。だからこそ部屋に入ったその瞬間に、ウルフは戦闘態勢に入ることが無かったのだ。


「君の判断基準からすると、俺は裁かれるべき存在ではないよね?」


 ウルフは力なく、ゼロを掴み上げていた手を離す。自由になったゼロはニッコリと笑うと、握手を求めるように、その右手をウルフに向かって差し出した。


「君は自分の意志でここに来たと思っているだろう? でもそれは違う。ボクは君を呼び寄せる為だけに警察にちょっかいをかけたんだ。ワタシは君の力が欲しいのさ」


 戸惑った様子のウルフの手を掴み、ゼロは無理矢理握手をする。


「手を貸してくれウルフ。悪が許せないのなら、一緒に世界を変えないかい?」








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