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ウィング

「ヒャァハハァ! 早くこのバッグに金ありったけ詰めろってんだ!」


 銃器を持つ暴漢が4人。


 彼らはそれぞれおそろいのマスクと黒い衣装を身に付け、周囲の人間に銃口を向けて完全にその場を制圧していた。


 暴漢の一人に脅された銀行員の女性がガタガタと震えながら手渡されたバッグに金を詰めていく。


 他の利用客や職員は一カ所にまとめられ、銃口をつきつけられて人質とされていた。


 こうなってしまえば周囲を包囲している警察もうかつに動けない。まさに絶体絶命、今この場面を打開し得るのは超人的な力を持つヒーローを除いて他にいないだろう。


 誰しもがヒーローの登場を望んだその時パリンと甲高い音を立てて銀行の窓が割れ、外からピンク色の人影が飛び込んできた。


 ぴったりとした身体のラインがわかるヒーロースーツに黒色のグローブとブーツ、顔が判別できるレベルの小さなアイマスクをつけているその人物は新人ヒーローのエマ・R・ミラーである。


 銀行の窓硝子を豪快に突き破ると宙で一回転し、重力に引っ張られて地面に着地する前にエマはその背中から一対の純白の翼が姿を現した。


 バサリと翼を羽ばたかせて宙にホバリングするエマ。その羽ばたきによって抜け落ちた羽根がふわふわと彼女の周囲に舞い落ちる。


 彼女のその美貌も相まってその光景は天使の降臨を思わせる幻想的な神々しさを醸し出していた。


 エマの突然の登場に呆気にとられている暴漢達。


 体勢を整える隙など与えない。エマはバサリと翼をはためかせると暴漢の一人に急降下してその勢いのまま跳び蹴りを喰らわせる。


 降下の勢いと翼による推進力の加わったその一撃は凄まじい威力を生み出し、大の男を派手に吹き飛ばして一撃で失神させる。


「くっ!? 新手のヒーローか!」


 仲間がやられているのを見て銃を構える男に向かってエマは駆けだした。全力で駆けながらもその瞳は冷静に暴漢の手元に向けられており、グッと背中の翼に力を込める。


 男の指がトリガーにかけられるのと同時にエマは翼を大きく羽ばたかせると横っ飛びにジャンプをする。


 翼の推進力と本人の脚力によるジャンプ回避は予測不可能な回転を巻き起こしながら宙に舞い、放たれた銃弾は彼女にかすりすらしない。


「甘いわよ!!」


 一気に距離を詰めたエマはそのままローリングソバットの要領で蹴りを男の側頭部に叩き込むとその意識を刈り取った。


 失神した男の身体を足蹴にしてエマは高らかに勝ち名乗りをあげる。


「新ヒーロー ”ウィング” 華麗に勝利!」


 瞬間ワッと湧き出す人質達。


「アレってもしかしてエマ・R・ミラー?」「トップアイドルの一人がヒーローになるって噂は本当だったのね」「凄い強いな! 今後の活躍が楽しみだ」


 顔をほぼ隠していないヒーロースーツの狙いはこういう所にあったのだろう。すでに認知度が高いエマは顔を隠さない事でヒーローとしての最初の活動から最高の人気を手に入れたのだ。


「・・・なるほどねえ。初対面の先輩に啖呵切るだけの実力はある訳だ」


 人知れず残り二人の暴漢を撃退していたケイゴは一人圧倒的な喝采を受けているエマ・・・否、新ヒーロー ”ウィング” の姿を興味深そうに観察していた。


 実力もさることながら人々の視線を一身に集めるあの派手な立ち振る舞いは確かに大したものだ。ヒーローのイメージをアップするという上層部の狙いは確かに彼女が最適と言ってもいいのだろう。


 そんな輝かしい彼女の姿を見て一つため息をついた後、ケイゴは失神した暴漢達を拘束しようと視線を落とした。


 次の瞬間鋭い銃声が鳴り響き、一発の銃弾がエマの片翼を打ち抜いた。


 吹き出す鮮血と撃たれた衝撃で地面に倒れるエマ。その痛ましい姿に歓声が悲鳴に変わった。


「あらん、せっかく迎えに来たっていうのにヒーローに制圧されてるなんて使えない部下達ねえ」


 野太い声が銀行内に響く。


 現れたのは逞しい腕にライフル銃を構えた大柄のオカマであった。





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