悪の臭気
『・・・警察庁のアームストロング長官により結成された、対能力者用特殊部隊”ヘル・ハウンド”が、先日”一部隊まるごと”行方不明になった事件について・・・・・・』
店頭に並んだテレビの向こう側にいる、すまし顔のアナウンサーが先日起こった事件について話している。
警察庁の新長官によって結成された特殊部隊ヘル・ハウンドが、能力者が暴れているとの通報を受けて出動した後、ぱったりと姿をくらましたのだ。
一人や二人ではない、1部隊まるごとの失踪。その怪奇な事件に人々はざわついていた。
「・・・・・・臭うな。吐き気がする・・・邪悪の臭いだ」
TVを見つめてポツリと呟く男。
ボザボサの黒髪。鋭い眼光と着古した革ジャン。ウルフと自称する男は、その鋭い眼光で最後にテレビを一瞥すると、くるりと身を翻して街の喧騒へと姿を消したのだった。
入り組んだ裏路地の最奥、善良な一般市民は決して近づかない寂れた酒場。裏の人間達が集うその場所に、ウルフはやってきた。
スンっと、鼻を鳴らす。
空気が淀んでいる。
酒と、タバコと、クスリと・・・・・・血の臭い。鼻の曲がるような悪の臭い・・・だが、この場所は利用価値がある。故に今は見逃すのだ、より大きな悪を滅ぼす為に。
乱暴に酒場のドアを開ける。中で酒を呑んでいた荒くれ達の視線がウルフに突きささるが、ドアを開けたのが誰か理解すると、荒くれ達は決まりが悪そうに視線を逸らすのだった。
そう、この酒場の常連である彼らは、ウルフが何者かは知らなくても、その強さはよく知っていたのだ。
しかしそれは常連に限った話。今日は新顔がいたようで、酒場の店主の元へ向かおうとしたウルフの目の前に、頭をつるつるにそり上げた強面の男が立ちふさがった。
「よお、気に入らねえ面してんな、兄ちゃん」
男の身長は、180センチ近くあるウルフを見下ろすほど大きく、隆起した筋肉が服の上からでもわかるほどだ。
腕には自信があるのだろう。
しかし、今回は相手が悪すぎたのだが。
「邪魔だ」
ウルフは一言そう言うと、男の胸ぐらを掴み、そのまま片手で男の巨体を持ち上げた。その巨体故、人に持ち上げられるという事なんて想像すらしていなかった。しかも自分より小さな男に片手で持ち上げられているという事実に、男は一瞬何が起こったか理解が出来なかった。
ウルフは、そのまま持ち上げた男を酒場の壁に向かって投げつけた。
加減はしていたのだろうが、壁に勢いよく叩きつけられた男は、その衝撃で意識を失ったのだった。
「・・・・・・もう少し穏便に頼みたいものだね」
呆れたような店主の言葉に、ウルフはフンッと鼻で息を吐き出した。
「穏便だったろう? 何せ奴は死んでいない」
肩をすくめる店主に、ウルフは懐から取り出した金を握らせると今日ここに来た目的を話す。
「奴は奥の部屋か?」