不穏な噂 6
「ねえレパード警部、ボクの目を見てよ」
青年はそう言ってグッとその顔を近づけてきた。男であるレオンすらハッとするような中性的な美貌、その藍色の双眸がジッとレオンを見つめる。
(どうする? 今能力を発動しても、目の前の男は拘束できるがセルジオがいるかぎりオレの勝ちは見えない・・・どうにかして外に居る部下達に合図を送れれば・・・)
その時レオンはようやく自身の身に起きている異変に気がついた。
(体が動かない!? いや、それどころか言葉を発する事すらできないだと!? なんだこれは・・・まるで・・・・・・)
「動かないでしょ? 体」
歪な笑みを浮かべた青年が嘲るように問いかける。しかし今のレオンはその問いに答えることすら出来なかった。
「相手を完全に無力化できる事ができるのが自分だけだとでも思った? ふふっ、残念だったねレパード警部。実は私も似たような事ができるんだよ」
レオンはその言葉に愕然とする。嫌な予感が的中したのだ。目の前の青年は、レオンの”捕食者の眼光”と同様の、相手を無力化することのできる能力を持っている。
(そんな・・・馬鹿なことが・・・・・・オレは・・・オレは選ばれた人間の筈・・・なの・・・に・・・)
自身の能力に絶対の自信を持っていたレオン。その、己こそが選ばれた人間だというアイデンティティが目の前の青年により崩されていく。そんなことあり得ないと否定したいが、全く体が動かないという現実がそれを許さなかった。
「ゼロ、あんまり遊びが過ぎると外の連中がやってくるぞ?」
レオンの背後にいたセルジオが青年に呼びかける。
ゼロと呼ばれた青年はセルジオの言葉に無言の微笑みで答えると、ソッとその右手でレオンの頬を包み込んだ。
「じゃあ遊びはここまでだ・・・・・・さて、レパード警部、ボクの目を見て」
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