不穏な噂 4
「クソッ!! クソッ!!」
レオン・レパード警部は荒々しい口調でそう言いながら自身のロッカーを強く殴りつけた。薄いスチールのロッカーが、鍛え上げられたレオンの拳によって変形する。その硬質な音に驚いた同僚がレオンの方を見てくるが、レオンは鋭い眼力で彼を威嚇した。
やっかいごとに関わりたくないと思ったのか、それともレオンの迫力に押されたのかはわからないが、同僚は無言で目をそらしてどこかに言ってしまった。
「・・・このオレがヘル・ハウンドの隊長を降ろされるだと? ふざけるな!? ヘル・ハウンドはオレのものだ! オレ以外の誰がこれほどの成果を出せるというんだ!?」
実際彼は凄まじい程の結果を出している。
強力な能力を持つ犯罪者に対して、ヘル・ハウンドよりも長く仕事をしてきたヒーロー部隊に一切の手出しを許さずに、この街の犯罪を粛正してきたのだから。
まさに、並外れた暴力性さえなければ、レオン・レパード警部こそヘル・ハウンド部隊の長として相応しい人選だったのだ。
レオンが更衣室で一人怒りに震えていると、腰のベルトに付けた通信機が鳴り響いた。その音を聞いた瞬間、怒りに火照っていた彼の脳みそが一気にクールになる。
この通信機が鳴るという事は、街で通常の警察では対応できない事件が起こった事の合図・・・即ちヘル・ハウンドへの出動要請だ。
(・・・・・・まだだ。まだオレは終わっていない。証明すればいいのだ。このオレこそがもっとも優秀であると)
ここで一人怒っていても事態は好転しない。
失態は功績で取り消せば良いのだ。
自分の感情を素早く切り替えることの出来るこの器用さこそが、レオンの優秀たる所以の一つであった。
◇
「この周辺を包囲しろ、決して逃すなよ? 残った五名はオレと一緒に突入だ。最初から銃は撃てるように準備しておけ」
現場でテキパキと指示を飛ばすレオン。今回の現場は街外れの廃工場・・・現場の警察官から応援要請があったのだが、工場内からは一切の物音が聞こえなかった。
(それにしてもこの場所・・・どこかで聞いたことがあるような・・・)
レオンは奇妙な違和感を感じて首をかしげるが、生憎とすぐには思い出せそうに無かった。ゆっくりと首を横に振る。今はそんな些細なことにかまけている時間は無い。失った信用を取り戻すために結果を残さなくてはならないのだから。
「・・・突入だ! 行け!」
レオンの合図で五人の部下達が工場内に突撃する。扉を押し開け、中に流れこんだその先には、大柄な一人の男が佇んでいた。
「よお、遅かったじゃねえかヘル・ハウンド」
鮮やかな紫色の頭髪、キラキラと輝く金色のスーツ。目には炎を象った特徴的なタトゥーが彫り込まれている。
知っている・・・否、警察官でこの男の名を知らないモノはいない。
「・・・麻薬王、セルジオ・バレンタイン」