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不穏な噂 2

 薄暗い裏路地に、拳で肉を打つ湿った音が響き渡る。


 一般人が間違って入り込まないように周囲を囲んだ無表情の警察官達、対能力者用部隊ヘルハウンド。その円の中心に居るのは地獄の番犬たちの長、レオン・レパード警部。


 レオンは少し息を切らしながら、しかし顔を恍惚の表情に歪めて、地面に横たわっている男を思いっきり蹴り上げる。


 低いうめき声を上げてうずくまる男。この男はつい先ほど大通りで暴れている所を捕らえられた犯罪者だ。体の至る所が傷だらけで最早意識も朦朧としていた。


 そんな男にさらなる追撃を加えようとするレオンに、背後に控えていた一人の警察官が声をかける。


「警部、それ以上は命にかかわるかと」


 短い制止の言葉。しかし先ほどまで我を忘れたかのように盛り上がっていたレオンは、以外とまだ冷静だったらしく、その制止の言葉を聞いてピタリと動きを止めた。


「・・・ああ、またやりすぎてしまう所だった。では後の処理は任せたよ。オレは少し離席するから」


 そう言ってひらりと手を振ったレオンに、ヘルハウンドの隊員達は敬礼をして了解の意をしめした。


 その光景を見て満足げに頷いたレオン。そしてフラフラと路地裏から抜けると現場を後にしたのだった。







「・・・ああ、まだ足りないな」


 しばらく熱に浮かされたようにフラフラと歩いていたレオンは、不意にそう呟いた。自身の右拳に付着した返り血をぺろりと舐めると、ゾッとするような目つきで上空を見上げる。


 ・・・満たされない。


 いくら犯罪者をいたぶっても、レオンの心の奥底に存在するドロドロとした欲求は一向に満たされなかった。


 いや、それどころかそのどす黒い欲望は、日に日にその大きさを増していくようで・・・いつかやり過ぎて、犯罪者を殴り殺してしまいそうだった。


 正直、レオン自身も戸惑っている。


 今まで生きてきた中で、自分の奥底に存在するこの欲望について、まともに考えたことなんて無かった。


 だからこそ、この衝動がここまで大きなものだとは思わなかったのだ。


 止まらない。


 止められない。


 最早彼自身にすらこの衝動を止めるすべは無い。


 肉食の獣が獲物の首筋に牙を突き立てるように・・・それは彼という存在そのものが持つ、生来の衝動なのだから。





◇ 

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