ヒーローになりたくて
「オレは・・・君のようなヒーローになるんだ!」
ジョセフはそう叫んで拳を握り締めた。
プライドも立場も憎しみも・・・全てのしがらみから解き放たれたあの日の少年は、ただただ透き通った純粋な瞳で正面を見据える。
感謝しかない。
自分の奥底に眠っていた本当の気持ち。気づかせてくれたのは憧れ続けた正義の体現者。感謝・・・この状況に、ジョセフは心から感謝の気持ちを送る。
拳を振り上げる。
そしてジョセフは・・・悪の親玉として今まで負けるために生きてきた男は、生まれて初めて勝利の為にその拳を振り下ろした。
邪気の無い、生まれたての拳をケイゴは真正面から受け止める。その一撃は今までのどんな攻撃よりも重く、ケイゴの体を大きくのけぞらせた。
何としてでも勝ちたいのだと。
そんな一途な気持ちが拳を通して伝わってくる。
しかし負けられないのはケイゴも同じ。今にも倒れそうな体を無理矢理引き起こしてキッと鋭い目線をジョセフに向ける。
「勝ちたいと・・・自分はヒーローに、正義の味方になりたいのだとそう言ったな?」
ケイゴの言葉にジョセフは深く頷く。
「・・・ああ。私・・・オレは君に勝つよヒーロー」
「そうか・・・ならばボクもヒーローとしてアナタに一つ伝えなくちゃいけないことがあるんだ」
そしてケイゴは拳を握り締める。
「アナタが勝ちたいと望んだのなら・・・正義の味方に焦がれたのなら! もう既にアナタの心は正義の味方そのものだ」
ジョセフは驚いたように目を大きく見開いた。ケイゴはニヤリと不敵に笑って拳を大きく振り上げる。
「例え敗北に汚泥を舐めようと心が勝ちを諦めない限り正義は死にはしない!」
頬に撃ち込まれたその拳は熱く、その熱が体の芯にまで届くようだった。ドウと血に倒れたジョセフは空を見上げてフッとその表情を緩める。
もう立ち上がれない。体に力が入らないのだ。
空はどこまでも青く透き通っていて・・・見上げると吸い込まれるようだ。ジョセフは震える唇をソッと開いて小さな声を出す。
「なあ・・・ヒーロー・・・」
「・・・なんだい?」
「・・・・・・・・・ありがとう。やっと・・・オレは答えを得たような気がするよ」
そしてジョセフは静かに瞳を閉じた。
ドクドクと傷口から流れ出る血が地面を染めていく。
完全なる敗北、しかし心は晴れやかだ。
(ああ・・・なんだか・・・少し眠い・・・・・・・)
暖かな水の中に沈んでいくように
ジョセフは静かに意識を手放した
◇