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対等な拳 2

 振り抜かれた拳が見事にジョセフの顎を撃ち抜く。


 頭蓋の中で揺れに揺れた脳みそ。ジョセフの視界はぐにゃりと歪み、本人の意志とは無関係に膝がガクガクと震え出す。


 いかに鍛えた人間でもこうなってしまってはお終いだ。


 もう十分に戦った。


 こうして長年焦がれ続けた真のヒーローと心ゆくまで殴り合えたのだ。もう、倒れてしまってもいいだろう。


 ジョセフ自身すらそう納得しかけた時、何故か彼の足が倒れることを拒否してしっかりと地面を踏みしめた。


 ジョセフは困惑する。


 首からは今も尚激しい出血が続き、激しい殴り合いの性で全身ボロボロだった。こんな無様な状況で何故自分は立ち続けようと踏ん張っているのか、全く理解ができなかったのだ。


(・・・何故だ? 何故私は立っている? 悪役として・・・今が絶好のやられどきだろう?)


 そう、今この瞬間が悪役として最も華々しい死に様な筈。


 もう問いの答えも得た。ならばここで負けて終わることこそが自分の最も望むべく事だった筈だ。


 そっと視線を上げる。


 目の前にはボロボロになりながら鋭い視線でこちらを睨み付けてくる正義の味方の姿。その雄々しい立ち姿を見てジョセフは目を見開いた。


 気がついた。


 気がついてしまったのだ。


 何故自分の足がこうも踏ん張っているのか。


 何故自分がこうも負けることを拒んでいるのか・・・。


「・・・ハハ、何だ・・・そんなことか。・・・くだらない、何故こうなるまできがつかなかったんだろう」


 ジョセフは自分自身に皮肉げに笑う。そして再び顔を上げると・・・そこにあったのは先ほどまでの狂気に満ちた彼とはまるで別人な、何かふっきれたように清々しい表情を浮かべた男の顔があった。


「なあヒーロー・・・どうやら私は・・・いや、オレは正義の味方って奴になりたかったらしいぞ?」


 自分自身すら気がついていなかった本心。


 正義のヒーローに対する狂気にも似た憧憬。


 何のことは無い、彼は勝ちたかったのだ。


 幼い頃に憧れた正義の味方のように、勝利で自分の人生を飾りたかったのだ。


 自分を見捨てた両親・・・世界に対する憎しみが強すぎてジョセフの願いは歪められていた。


 死に直面した今この瞬間、彼は今初めて正直な自分の気持ちと向き合うこととなる。


「私・・・オレは・・・君に勝ちたい!」



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