対等な拳
硬く拳を握り締め並び立つ両雄。
先に動いたのはケイゴの方だった。
そもそも能力を使わない近接戦闘を主な戦闘スタイルとしているケイゴ。互いに能力の使えないこの状況ならば道具を用いた戦闘でケイゴが圧倒的な優位に立てるだろう。
しかしケイゴは相対するジョセフの何か覚悟を決めたような瞳を見てその考えをかき消した。何故だかこの男とは正面からぶつからなければならない・・・そう感じたのだ。
拳を硬く握り締め、一歩前に出る。古流武術のマスターである祖父からみっちりと格闘技を教わった謂わば近接格闘のスペシャリストであるケイゴが選択した行動は、あろう事か何のフェイントも無いテレフォンパンチだった。
技法も何も存在しない。
しかし、だからこそカウンターの危険性も考えずに全体重を込めた拳がジョセフの左頬に叩き込まれる。
大きく態勢を崩すジョセフ。
しかしすんでの所で踏みとどまったジョセフは、次は自分の番だとばかりにゆっくりと体を起こして一歩前に進み出た。
「あぁあああ!!」
大きく声を張り上げながら握り締めた拳を振り上げるジョセフ。素人丸出しのそのパンチを、しかしケイゴは回避する様子すら見せずに顔面で受け止めた。
拳で肉を撃つ音が響き渡る。
素人の拳とはいえ、容赦なく叩き込まれたパンチのダメージは大きい。
しかし倒れない。
倒れるわけにはいかない。
ケイゴはカッと目を見開き目の前の男を澄んだ瞳で見据えた。
「今度はボクの番?」
「・・・ああ、思いっきりきなよヒーロー」
示し合わせたかのような交代制の攻撃。こんな茶番じみた殴り合いに、しかし二人の瞳は真剣そのものだった。
ヒーローとして、悪として。
譲れない想いがそこにはあったのだ。
派手な能力バトルとはほど遠い泥臭い殴り合いが続く。
互いに顔は腫れ上がり、視界はぼやけている。歯も何本か折れているかもしれない。口からは血がダラダラと止めどなく垂れ続ける。
チカチカと視界にスパークが巻き起こる。ケイゴは自分が立っていられる時間もそう長くない事を悟った。
(・・・だけど決して目の前の敵より先に倒れることだけは許されない)
ケイゴは全身の細胞からありったけのエネルギーをかき集めて拳を振り上げた。全身になにかゼリー状の物質がまとわりついているようだ。体が思うように動かせず・・・それでも全力で拳を振り下ろす。
「これで・・・終わりだ!」