決戦 13
サッと背後を振り返るジョセフ。しかし時既に遅し、猛然と背後から襲い来るは毛むくじゃらの獣。クワッと大きく開かれたアギトから覗く鋭い牙が次の瞬間には無防備なジョセフの喉元に突き立てられた。
ジョセフは信じられないといった表情で自身の首に食いついている獣・・・ウルフを見つめる。
首元に噛みついたウルフの体は居たる場所に深い切り傷が刻まれ既に満身創痍といった風情であったが、その瞳にはギラギラと殺意を漲らせている。
トドメを刺さんと顎に力を入れるウルフにジョセフは炎を纏わせた拳を思い切り叩き込んだ。
ジョセフの拳が触れた場所からウルフの体に炎が燃え移り、一瞬でその巨体が灼熱の炎に包まれた。
「グルァアアァ!!?」
炎の攻撃を受けたウルフは思わずジョセフから牙を離した。フラフラと後ずさるウルフに向かってジョセフは容赦の無い追撃を加えんと一歩前に進み出た。
「この犬っころがぁ!! よくもヒーローでも無い貴様がこの私に手傷を負わせてくれたねぇ!!」
怒りの表情で拳を握り締めるジョセフ。その拳に先ほどよりもさらに紅く輝く炎の渦が巻き付いていく。短い助走から怒りのままに叩きつけられたその拳はウルフの巨体を軽々と吹き飛ばした。
吹き飛ばされたウルフは地面に二度、三度バウンドして転がりそのまま動かなくなる。その様子を見ていたジョセフは肩で息を切らしながらゆっくりと呆然としているケイゴの元に振り返った。
「・・・待たせたねニンジャボーイ。つまらない邪魔が入ってしまったが・・・さあ続きを始めようか」
そう言ってケイゴの元へ戻ろうとしたジョセフ。しかし先ほどのダメージが大きすぎたのか一歩踏み出した瞬間にその場で膝をついてしまう。首元の傷口からは鮮やかな鮮血が吹き出していた。
「・・・・・・もうやめにしようジョセフ・ボールドウィン。見たところ重傷だ、そのままだと死んでしまうぞ?」
ケイゴの言葉にジョセフは小さく微笑むと一気に立ち上がってそのままケイゴの顔面を殴りつけた。
能力も発動していないただのパンチを受けてケイゴはよろよろと後ずさる。
「・・・寂しい事を言うなよヒーロー。確かにダメージが大きすぎて能力は発動できないけど・・・それは君も同じだろう? ならば私たちは対等だ」
確かに互いに能力が使えないほど消耗しているという点では同じだろう・・・しかし対等では無い、明らかに。恐らくは重要な血管に傷がついているのであろう、彼の首元から吹き出す鮮血がその傷が致命傷であることを物語っていた。
しかしジョセフの目は恐ろしく澄んでいた。その瞳を見てケイゴは理解した。例えここで死ぬとしても彼は一歩も引く気は無いのだと。
ならばヒーローとして取るべき行動はたった一つ。彼の命が尽きる前に勝負をつけて病院に連れて行きその命を救う・・・。
「・・・いいよ、勝負をしよう」
覚悟を決めたケイゴもギュッと拳を握り締めた。
最後の戦いが
始まる。