決戦 11
「・・・銃声は下か」
窓から飛び降りたケイゴの姿を感心したように見ていたジョセフは、やがて下の階層から聞こえてきた銃声によって彼がどこにいるのかおおよその位置を掴んだのだった。
「さて、今度はどんな戦術を見せてくれるのかな?」
ニンジャボーイは決して正面からの戦闘力が高いヒーローでは無い。影から影へ移動できるというその特殊な能力を利用した不意打ちが基本戦術となっている。
不意打ち・・・何ともヒーローらしくない戦術だ。本人もそれは十分わかりきっているのだろう。だからこそケイゴは徹底して他のヒーローのサポートに徹した。光り輝く表舞台のヒーローを影から支える裏方、しかしそれは彼の実力が低いという事にはならない。
ジョセフは長く裏社会に身を置いてきたからこそわかる。ケイゴの戦術は恐ろしく実践的で・・・そして実に厄介だ。
油断はしない。
もっとも己が認めたヒーローに対して手を抜くなんて選択肢は初めから持ってはいないのだが。
ジョセフが階段を下りて銃声のした部屋のドアを開けると、中には武装した男が倒れておりもう一人の男がどうやら倒れた男を介抱しているようだった。
「・・・何があった?」
その問いかけでようやくジョセフの存在に気がついた男がサッと立ち上がって慌てて敬礼をする。
「ニンジャボーイです。奴が窓から現れてコイツがやられました」
「なるほど。ニンジャボーイはどこに行った?」
「恐らくは下の階かと」
「わかった・・・奴は私が追う、お前達は手出しするなよ?」
「かしこまりました!」
再び敬礼をする部下に背を向けて部屋を出ようとするジョセフ。
しかし次の瞬間、背後から乾いた銃声が響き渡る。遅れて右太ももに感じる激痛にジョセフは顔をしかめてその場に倒れ込んだ。
サッと右足を確認すると派手な先決がぽっかりと右足に空いた穴から吹き出していた。
「・・・声でバレたらどうしようかと思ったけど、気がつかなかったようで安心したよ」
振り返るとそこにはフルフェイスのヘルメットを取り外した男の姿。それはジョセフの部下に変装したケイゴであった。
ケイゴは手にした銃器の銃口をピタリとジョセフに向けながら緊張した面持ちで口を開く。
「動くなジョセフ・ボールドウィン。大人しく投降しろ」
あの状況なら背後から背中を撃てば勝負は決まっていただろう。あくまで足を撃ち抜くことでヒーローとしての不殺を貫いたのだ。
銃口を突きつけられたジョセフは絶体絶命な状況にもかかわらずフッとその表情を和らげる。
「驚いたよニンジャボーイ、やるじゃないか・・・・・・でも甘すぎる、甘すぎるよヒーロー。私を止めたいのなら足では無くこの頭蓋を撃ち抜き給えよ」
ふらふらと立ち上がるジョセフ。柔らかだったその表情が一変して狂気の笑みが浮かんでいた。
「殺す気で来いよヒーロー!!」