決戦 10
「行くよヒーロー!」
目を爛々と光らせたジョセフがケイゴに向かって炎を放つ。煌々と燃え上がる灼熱の炎が凄まじい勢いでケイゴに襲いかかった。
火炎使いと聞いて最初に思いつくような何の捻りもないシンプルな攻撃。しかし狭い室内で行われる火炎放射は回避するスペースが無く、対応が難しい。
ケイゴはちらりと側方にある窓に視線をやった。
この場所はビルの上層、しかし目の前に迫り来る灼熱の炎が他の選択肢をケイゴに与えなかった。
「クソッ! どうにでもなれ!」
悪態をつきながら窓に向かって走るケイゴ。片腕で顔をガードし、もう片方の腕で懐から何か道具を取り出しながら勢いよく窓を突き破る。
ふわり。
内臓がグッと浮き上がるような不快な感覚。ケイゴは素早く懐から鉄の爪が先端に括り付けられたロープ・・・所謂カギ縄を取り出すと爪部分を投擲して窓枠に引っかける。
こんな不十分な態勢での投擲は賭けだったがどうやら悪運は強い方だったらしく鉄の爪はがっしりと窓枠を掴んだ。
(よし、第一関門はクリア・・・後は・・・)
しかし問題はここからである。重力に引っ張られて体が激しくビルの壁に打ち付けられる。受け身が十分に取れなかったケイゴは肺から空気が吐き出される。
痛みを堪えてグッと縄を握り締める。
ちらりと周囲の確認をしたケイゴはぶら下がっている自分の近くに下の階層の窓がある事に気がついた。
流石に地面にまで下りるにはロープの長さが足りない。
ケイゴはロープの長さを調節しながら下降すると窓を蹴破って一気に部屋の中に降り立った。
「な、なんだテメェは!?」
ちょうどその部屋には武装したテロリストの男が二人巡回中だったようで、いきなり窓から乱入してきたケイゴに驚いていた。
相手の武装がかなり整っている事はわかっている。まともにやりあえばこちらが不利だ。
ケイゴは相手が驚いている隙をついて能力を発動、自身の影に潜り込んでその姿を消した。
「・・・!? どこに消えやがった?」
急に姿を消したケイゴにテロリスト達はキョロキョロと周囲を見回した。手元の銃器もいつでも発射できるようにトリガーに指をかけている。
次の瞬間テロリストの一人の足下から突然姿を現したケイゴが虚を突かれて動きが止まっている男の顎思い切り掌で殴りつけた。
顎を殴られた男は脳浸透を起こして気絶。隣に居た男が咄嗟に銃を構えるがその時にはすでにケイゴの姿は消えている。
「どこだ!?」
つい先ほどまでそこに居たはずだ。男は半狂乱で銃を乱射するがもちろん能力で影の中に隠れているケイゴには当たらない。
「ここだよ」
男の背後にできた影からするりと出てきたケイゴは一言そう呟くと後頭部を刀の柄で殴打して男を気絶させる。
不意打ちとはいえ二人を制圧することには成功した・・・しかし先ほどの銃撃音で場所は特定されてしまっただろう。
すぐに部屋を出ようとしたケイゴ。しかし何かを思いついたように床に倒れている二人のテロリストを振り返る。
「・・・・・・もしかして」
◇