決戦 9
敵の問いになど答える義理は無い・・・無いのだが、ジョセフの顔は真剣そのものだった。それは魂の叫びにすら聞こえる鬼気迫る表情だった。
ならば答えねばならない。
ヒーローとして、正義を志すモノとして。
「ボクの正義? そんなの決まっているだろ?」
そう、決まってる。
考えるまでも無く、その答えはケイゴの中にある。
「難しい事はない。”助けたいから助ける” ただそれだけだよ」
「”助けたいから助ける”・・・だって?」
その答えを聞いた。ジョセフは何故か驚いたような表情をしてケイゴの言葉をオウム返しに呟いた。
「そうだよ。正義を行うのに大仰な理由なんていらない・・・目の前に困っている人がいて、そしてボクが助けたかった。理由は至ってシンプルさ」
ああ、ジョセフは目の前に対峙するケイゴのその言葉を聞いてあることを思い出す。
それは彼の人生を決定づけた忌まわしき事件。灼熱に撒かれたこの世の地獄、そしてその地獄から救い出してくれたヒーローの姿を・・・。
幼きジョセフは灼熱の地獄から自分を救い出してくれた男に問いを投げかけた。即ち”何故自分を助けてくれたのか” と。幼子に取って世界の全てと言っても良い両親に見捨てられたジョセフにとって、彼が命をかけてまで他人である自分を助けた意味が本当にわからなかったのだから。
するとヒーローは朗らかに笑ってこう答えたのだ。
『炎の中に君が取り残されていると知って勝手に体が動いたんだ。人助けに理由を求めるモノでは無い、ただ助けたいから助けた・・・それだけさ』
(・・・・・・ああ、そうか。そうだったのか)
ジョセフは目の前のヒーローを見つめた。
ニンジャボーイ・・・年若きこのヒーローは確かにあの頃に自分が想い焦がれた正義の味方であるらしかった。
「・・・なるほど、理解したよニンジャボーイ。君は紛うこと無く正義のヒーローだ。悪の化身であるこの私が保証しよう」
そう言ったジョセフの表情は、何か憑きものが落ちたかのように柔らかなモノだった。
「ニンジャボーイ・・・正義の体現者よ。願わくばこの戦いで・・・その正義の炎でこの汚れた私の体を焼き尽くしてくれ!」
その言葉に呼応するかのようにジョセフの体が激しく燃え上がる。煌々と紅く輝く炎はまるで喜びに打ち震えるかのようにより一層激しく燃えるのだった。