決戦 8
(・・・火炎使いか、何て強力な能力なんだ)
ケイゴは余裕綽々なジョセフを見て一筋の冷や汗を流した。
火炎使い。
シンプルにして強力無比な能力。漫画やアニメなどではお馴染みのメジャーな能力だが、超能力者が世に跋扈してからしばらく立つ今現在でも、ケイゴはこんなにも殺傷能力の高い能力者に会うのは初めての経験だった。
真正面から挑んでも勝ち目は無い。そしてこの狭い室内・・・倒れているジェームズを巻き込まずに戦うなんて難易度が高すぎる。
全く良い考えの浮かばないケイゴは取りあえず時間を稼ぐためにジョセフと会話をすることに決めた。
「・・・ジョセフ・ボールドウィン。アンタはどういうつもりでこんな事件を起こしたんだ? こんなデカい騒ぎを起こせばすぐに軍が動くことになる・・・そうしたらいくらアンタが強力な能力者でも、多くの私兵を持っていたとしても勝ち目はないぞ?」
会話に応じるかどうかは賭けだったが、どうやらジョセフはおしゃべりなタイプらしく、どこか上機嫌にも聞こえる声音で返答をした。
「なるほど君の疑問も最もだねニンジャボーイ・・・本来なら答える必要も無い事なのかもしれないが・・・他ならぬヒーローからの問いだ。私は喜んで其の問いに答えよう」
大仰な様子でそう言うとジョセフは品定めするような様子でジッとケイゴの方を見るとゆっくりと話し出す。
「確かに軍が動いた時点で私に勝ち目はないだろう。そう遠くない未来に私は軍の手によって撃ち殺されるのだろうな」
そう、それが解せないのだ。
ジョセフの行動は派手なだけで彼に何の益も無い。そしてその行動の結果、軍の手によって自分が殺される事も承知の上のようだ。
「・・・わけがわからない。アンタは自殺するためにこんな大がかりな事件を起こしたっていうのか?」
「それは違う。確かに私は自らの死にそれほどの恐怖を感じてはいないが・・・別に死にたがっている訳ではない。このテロ行為にはちゃんと目的があるのだよ」
「その目的とは何だ? 破壊行為自体が目的だとでも言うつもりか?」
その言葉にジョセフはゆっくりと首を横に振った。
「私の目的は・・・今この瞬間に達せられている。君たち・・・そう、正義のヒーローと賞される君たちとこうして最高の部隊で対面している今この瞬間こそが私の望みだ」
そしてジョセフはゆっくりと被っていた安モノのハロウィンマスクを脱ぎ捨てた。
中から出てきた顔で真っ先に目につくのは顔の右半分を覆っている痛ましい火傷の跡・・・彼の悪の原点。
「ヒーローよ。私は今再び君たちに問いを投げよう」
その顔は狂気に歪んでいた。
かつて正義に魅入られた少年は、しかし決して世界を愛することが出来なかった。正義になり損ねたその歪な心が目の前の正義に対して問いを投げかける。
「君にとっての正義とは何だ?」