決戦 7
ジョセフ・ボールドウィン・・・。
ケイゴは告げられた敵の名を頭の中で繰り返す。
その名は知っている。クイックリー警備の社長・・・かなりの有名人だ。こんな地位のある人間がどうして悪の道に染まっているのか、何故こんな派手なばかりで何の得にもならない騒ぎを行っているのかはわからない。
しかし目の前の男が倒すべき悪であるという事だけは明白だった。
ならば遠慮はいらない。ジョセフはまだ何かを話そうとしているが、それをいちいち聞いてやる義理も無いのだから。
ケイゴは素早く懐に手を突っ込むと数枚の手裏剣を取り出してジョセフに向かって投擲する。刃に麻痺毒がたっぷり塗られたそれはかすり傷でもつけば勝負が決まってしまう実に合理的な武器だ。
喋っている途中に攻撃をされたジョセフは少し驚いたような様子を見せるが、飛来してくる手裏剣に特に焦るでも無く右手を横に振るった。
右手に指揮されるようにジョセフの目の前に炎の壁が現れる。灼熱のソレに触れた手裏剣はジュッという音を立てて力なく地面に落ちていった。
「・・・ふふ、容赦がないねニンジャボーイ。奇襲に道具・・・やはり君は変わり種のヒーローみたいだね、まるで私の部下のようだよ」
「さっきオカマにもそんな事いわれたけど・・・ボクは歴としたヒーローだよ」
「おや? いつもの ”ござる” とかいう変わった口調は止めたのかい? 私はアレ、結構好きなんだけどね」
「他の誰が見てるわけでも無い場所で使う必要もないだろう?」
「そうかい・・・ふふ、それは残念だ」
何気ない会話をしながらジョセフは散歩にでも行くかのような気軽さでケイゴに向かって歩き出す。
ケイゴはサッと刀を右手で構えると、反対の手で懐から何かを取り出してジョセフに向かって投げつけた。
反射的に先ほどと同じように手を振って炎の壁を形成するジョセフ。しかしケイゴが投げた物体が炎の壁に当たった瞬間、ソレは爆発して周囲に大量の煙をまき散らした。
「ほほう、目くらましか。・・・なるほどね」
おそらくは次の瞬間にはこの煙に紛れてケイゴが襲いかかってくるのだろう。戦闘経験の少ないジョセフに見えないところからの攻撃を察知する力は無い。
ジョセフが行った回答はシンプルなものだった。
右手を目線の高さに掲げると、パチンと大きく指を鳴らした。その瞬間、360度隙間無く彼を囲むように灼熱の炎が出現する。
「くっ!?」
突然現れた炎に背後からの奇襲を狙っていたケイゴは素早い動きで後退して態勢を立て直す。判断が一瞬遅れていたら丸焼きにされていただろう。ケイゴの心臓はバクバクと早鐘を打っていた。
やがて煙が晴れるとジョセフはゆっくりとケイゴのいる方向に振り返る。安物のハロウィンマスクから覗く冷たい瞳があざ笑うかのように歪んだ。
「見つけた。なんだ、そこにいたのか」