決戦 5
勝ち名乗りを上げるケイゴ。
しかし地に転げたパワーはカッと目を見開くと勢いよく起き上がり、目の前にいるケイゴを思い切り蹴り飛ばした。
能力で強化されているパワーの脚力は凄まじく、ケイゴは地面とほぼ水平になって飛んでいく。
「・・・甘いわねニンジャボーイ。そこで峰打ちじゃなくて普通に斬りかかっていたらアタシを殺せていたものを・・・まあ、それがヒーローの限界かしらね」
例え犯罪者とはいえ殺してはいけない。
パワーのように桁はずれた超人を相手する場合、ヒーローに課された制約はあまりにも大きすぎる。
蹴り飛ばされたケイゴは上手く衝撃を殺しながら受け身を取って地面に転がる。サッと立ち上がってパワーに向き直った。
そんなケイゴを見てパワーは薄く笑った。
地面に落ちたショットガンを拾い上げ、弾を装填する。
「さて、第二ラウンドと行くわよニンジャボーイ。小細工無しの一対一でアタシに勝てるかしら?」
そしてパワーは地面を蹴って猛スピードでケイゴに向かって突っ込んでいく。その顔は自信に満ちあふれ、負けるはずが無いと不敵な笑みが浮かんでいる。
ショットガンの間合いに入った瞬間に発砲。しかしその行動を予想していたケイゴは瞬時に能力を発動すると自らの影にもぐりこんだ。
(そうやって散弾を避けるのは知っていたわ! さあ、どこから出てくる?)
背後からの奇襲を警戒するパワー。
神経を張り詰め
一秒
二秒・・・しかし辺りはシンと静まりかえっている。
「・・・逃げた?」
否、そんな筈は無い。
傷ついた仲間を放って逃げることのできる冷徹な人間ならば先ほどの攻撃で峰打ちなどしない筈だ。
「サッサと来なさいニンジャボーイ。アタシかくれんぼは好きじゃないわ」
声を張り上げるパワー。しかし返答は無い。
「・・・そう、ならアタシにも考えがある」
冷静な声でそう言ったパワーは手にしたショットガンの銃口を怪我をして倒れているエマに向けた。
引き金に指をかけた次の瞬間、建物の影から何か丸い物体が飛来してくる。ソレは地面にぶつかると爆発して周囲に大量の煙をまき散らしてパワーの視界を塞いだ。
煙玉。
ケイゴが祖父より譲り受けた道具の一つだ。
予想外の出来事に一瞬動きが止まるパワー。しかし次の瞬間には何の躊躇いも無くショットガンの引き金を引いた。
何も見えない煙の中、先ほどまでエマが倒れていた場所に目がけて散弾を発射する。その冷静さは長く戦いの中に身を置いてきたパワーならではの強みだ。
原始的な仕掛けの煙玉は最新式のスモークグレネードほど持続時間は長くない。少しして視界がクリアになってくる。
パワーがショットガンを撃った方向に視線を向けると、先ほどまで倒れていたエマの姿は無かった。
(なるほど、さっきの煙は仲間を助ける為のものだったわけね)
しかし仲間の危機が無くなったとはいえ、そのまま姿をくらますと言うことも無いだろう。パワーは周囲を警戒しながら声を上げる。
「早く姿を現しなさいよ腰抜け! 早くしないとアンタらのリーダーが死んじゃ・・・う・・・わ・・・よ?」
声を上げながらパワーはフッと視界が一瞬白くなって膝をついてしまう。気分が悪くなってきた。いつの間にか息も荒い。
「・・・ようやく効いてきたみたいだね」
目の前に現れたケイゴが冷徹な視線で膝をついたパワーを見下ろしている。
「なに・・・をしたのよ」
パワーの問いに対する答えはシンプルだった。
「毒さ。手裏剣にたっぷり塗ってある。安心して、致死性はない。しばらく体が麻痺する低度だよ」
毒。
あまりにもあっさりと答えられたその回答にパワーは乾いた笑い声を上げた。
「ハハ・・・やるわねニンジャボーイ。きっとアンタがこっち側にいたなら誰よりも残虐なヴィランになれる・・・わ・・・」
その言葉を最後に地に倒れるパワー。その姿を見下ろしてケイゴはポツリと呟いた。
「人の資質と在り方は違うものだよ。ボクの戦い方は暗殺術だけど・・・それでも決して悪には染まらない」