裏切者 2
互いに睨み合うエマとメグ。メグは余裕な表情で口元には笑みすら浮かんでいた。
先に動いたのはエマの方だった。しなやかな筋肉から繰り出される鮮やかな回し蹴り、まさに教本通りと言ったような綺麗な曲線を描いたその蹴りはあまりにも素直すぎる攻撃故に読みやすく、メグにあっさりとダッキングで回避されてしまう。
エマの蹴りを回避したメグは素早く体の向きを変えると背後のデスクを乗り越えてエマから距離を取った。振り返り、激しい動きで乱れた髪を右手で整えながら口を開く。
「あらあら乱暴ねエマちゃん。急に蹴りを入れてくる何て育ちが悪いのかしら」
「黙りなさい裏切り者。すぐに拘束します」
「それは困るわね。私はアナタみたいな野蛮な娘とは違って非戦闘員なの・・・だからできるだけ喧嘩はしたくないわ」
「ならば無抵抗で捕まりなさい」
「ふふ・・・可愛いわね。そんな訳にはいかないのよ・・・だから荒事はそれが得意な殿方に任せるとするわ」
荒事が得意な殿方?
それは何のことがとメグに問いかけようとしたその瞬間、エマは何かを感じ取った。
背後から殺気。
サッと振り返ると視界いっぱいに広がる巨大な拳。
とっさに両腕を体の前に組んでガードを試みる。拳がエマの左腕に直撃、ミシリと嫌な音と供に左腕に激痛が走る。
エマは殴られた衝撃を殺すように自分から背後に飛ぶとその衝撃を殺した。
殴られた左腕を庇いながら襲撃者をキッと睨み付ける。
「おいおい、オレ様の女に手ぇ出してんじゃねえよ」
鮮やかな紫色に染められた髪。見上げるほどの巨体。目元には炎を象ったタトゥーが彫り込まれている。
出会ったのはこれが初めてだったが、エマはこの特徴的な人物を資料で見たことがあった。かつてヒーロー部隊のリーダーであるジェームズが取り逃がした犯罪者。その名前は・・・。
「・・・麻薬王セルジオ・バレンタイン・・・何故ここに・・・」
セルジオ・バレンタイン。
いくつもの麻薬組織を束ねる組織の長にして自身も加速能力という強力な超能力を有する厄介な犯罪者だ。
セルジオはちらりとデスクの向こう側にいるメグを見て声をかける。
「メグ、ここはオレ様が受け持った。早いとこそのデータ持って逃げな」
「ありがとうセルジオ。頼りになる男は好きよ」
そういったメグの姿がフッとかき消える。まるでそこには最初から誰もいなかったかのように姿をくらましたのだ。
(・・・彼女も能力者だったって訳? いや、それより今差し迫った問題はこっちね)
エマは目の前のセルジオに鋭い視線を向ける。
「さて遊ぼうかぁ! 力の差って奴を教えてやるよ!」