裏切者
「エマ! 大変よ!」
アイドルの仕事も一段落し、楽屋でほっと一息ついていたエマの元に血相を変えて走ってきたのは彼女のマネージャーだった。
「どうしたのマネージャー。そんなに慌てて」
エマの問いにマネージャーは息を切らしながら簡潔に答える。
「テロよ・・・爆破テロ・・・今、ニュース見てたら・・・」
その言葉を聞いた瞬間エマは机の上に置いてあったテレビのリモコンを取って電源を入れた。ニュースの映像が流れ、ニュースキャスターがマネージャーが言っていたテロの詳細を喋っているのが確認できた。
「・・・・・・嘘・・・」
クイックリー本社と大手銀行の爆破テロ・・・しかも其の場所で凶悪な能力者が暴れているという。
「エマ! 私が来るまで送るわよ・・・準備急いで!」
「マネージャー?」
一段落付いたとはいえ、まだアイドルの仕事は終わっていない。困惑するエマにマネージャーはパチリと一つウインクをした。
「こんな時こそヒーローの出番でしょ? 仕事の方は私がどうにかするから気にしないで」
意外だった。
彼女はずっとエマのヒーロー活動について否定的だったのに・・・。
「アナタは私がヒーロー活動をすることについて良く思っていないと考えてたのに・・・」
「そりゃマネージャーの立場から ”トップアイドル” エマ・R・ミラーの将来を考えたらヒーロー活動には賛成できないわ・・・でもね、仕事とかのしがらみを抜きにしたら目指してるモノがあるならそれに向かって頑張るのって素敵だと思うわ」
「・・・・・・ありがとう」
「いいわよ別に。ほら、早く支度なさい。頑張ってくるのよヒーロー ”ウィング”」
マネージャーに直接現場まで送って貰う事も考えたが、今他のヒーロー達の動きも把握しておらず武装も整えていない現状足手まといになる可能性もある。エマは取りあえず本部に向かう事に決めた。
本部にたどり着いたエマ。マネージャーに礼を言って駆ける。
しかし妙だった。いつもなら厳重な警備態勢がしかれている筈のこの建物に入り口の警備員が見当たらない。
エマは不審に思いながらも無人の入り口を通り抜け、まずは状況を確認しようと事務室に急ぐ。
何故か連絡は取れなかったが、おそらくはオペレーターであるメグが他のヒーロー達をコントロールしているだろうから・・・。
しかし本当に妙だった。入り口だけでなく、建物内に他の職員の姿が見えない。これは明らかな異常事態だった・・・エマは何かが起こっていると察して気を張りながら急いで事務室に向かう。
事務室までたどり着き、ドアノブに手をかけようとして思いとどまった。
(・・・少し覗いて見ましょうか)
そしてエマは音を立てぬようにソッとドアノブを開いて事務室の中を覗き見た。中には予想通りメグが何か作業をしている。
(いや、おかしいわ・・・あのデスクはジェームズさんのデスク・・・何故メグがジェームズさんのPCをいじっているの?)
エマはそのままするりと音も無く部屋の中に入ると能力を発動して一気にメグの背後まで飛んでいった。
「ハローメグさん・・・アナタは一体何をしているのかしら?」
突然のエマの登場に驚くメグ。
エマが鋭い眼光でPCの画面を確認すると、それは軍のトップシークレット情報がずらりと並べられていた。
「・・・どうやってこの情報にアクセスできたのかは知らないけど・・・アナタがどういう立ち位置にいるのかはなんとなく把握できたわ。観念しなさいメグ・アストゥート」
エマの言葉にメグはくすりと笑って前髪を掻き上げる。その動作にはゾクリと背筋がざわつくような怪しい色気が漂っていた。
「まさかアナタみたいなケツの青い小娘に見つかるとは思わなかったわ・・・しょうがない娘ね本当に・・・大人しくステージの上で踊っていたら良かったモノを」