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罠 4

 ウルフは前方から迫り来る犯罪者達をその鋭い眼光で睨み付ける。やっかいな牢獄から解放された喜びに打ち震え、そして口からは獣の咆哮が放たれた。


 能力を発動させる。


 どちらかと言えば細身のウルフの体は骨格から組み替えられて見上げるほどの巨体へ変化していく。筋肉は大きく隆起し、爪や歯がググッと伸びて良く切れるナイフのようにその鋭さを増した。


 それは一匹の獣であった。


 狼からその気高さを取り払い、人間から知性を抜いて互いの醜いところをごちゃまぜにしたかのような醜悪な化け物だ。


 その醜悪な異物を視認した犯罪者達がびくりと震えてその足を止めた。その異様に思わず生唾を飲み込む。


「・・・邪悪、滅ぶべし」


 ウルフの口から放たれたその言葉はヒューヒューと空気が抜けて気辛く、まるで人間と異なる声帯を持つ生物が無理矢理に人の言葉を発しているかのような違和感が感じられた。


 大きく跳躍するウルフ。人外の筋力はそのひとっ飛びでふわりと十数メートルの移動を可能とし、犯罪者達の目の前に降り立った。


「・・・あ」


 恐怖のあまり固まる戦闘に立っていた男に、ウルフの右腕が無造作に振るわれる。鋭い肉食獣の鉤爪は男の体を易々と引き裂いて絶命させた。


「うわぁああああ!?」


 目の前で仲間が無残に殺されるのを見て他の男達は悲鳴を上げて逃走を始める。そんな犯罪者達の背中を冷たい瞳で見据えてウルフはそっと口を開いた。


「一人も逃しはしない・・・邪悪、滅ぶべし」












 半壊する監獄を見ながらソードはそこいらに転がっているちょうど良い大きさの瓦礫に腰掛けて懐からタバコを取り出す。


 タバコを加えてライターで火を付けると芳醇な煙が口腔内を満たした。ソードはくっきりと隈の浮かび上がった疲れた目で監獄を見据えると静かに煙を吐き出す。


 すると次の瞬間、ヒビの入った監獄の壁を打ち破って中から何かが飛び出してきた。


「・・・ほう、見覚えのある奴だな」


 ソードの呟きに、壁を突き破って出てきたウルフは口角をつり上げてその鋭い牙をむき出しにして笑う。


「久しぶりだな・・・貴様にはいつぞやの礼をしたいと思っていたところだ」


 ウルフの両手にはべっとりと返り血がついている。おそらくは監獄内に入っていった犯罪者達は皆ウルフに惨殺されたのだろう。


 ウルフは視線をソードに向けたまま背後にいるジェームズに語りかけた。


「この男は俺が滅ぼす・・・お前は行くところがあるのだろう?」


 犯罪者を殺して回るウルフのやり方には賛同できない・・・しかし今は一刻を争う状況なのも確かなのだ。


 ジェームズは悔しそうな表情を浮かべながら頷いた。


「ああ・・・ここは任せてもいいのか?」


「もちろんだ。さっさと行くがいいヒーロー。お前の甘っちょろい正義で平和が守れるのかを見せてみろ」


 そしてジェームズは走り出した。目指す警察庁。この街の平和を守るために・・・。








「追わないのか?」


 走り去っていくヒーローを止める様子も見せないソードにウルフは疑問を投げかけた。


「追わないさ・・・俺は計画通りに必勝の策をしいた、しかしそれでも生き延びるのならそれが運命なのだろう。もしかしたらあの男が我々の求める正義を見せてくれるかもしれない」


 そう言いながらゆっくりと立ち上がるソード。加えていたタバコを地面に吐き出して右腕を一振りの刃に変化させた。


「だがお前は駄目だぜウルフマン。お前の行動はボスにとって求めるものではない・・・ここで死んでいけ」


 殺意を漲らせたその視線を受けてウルフも好戦的な笑みを浮かべてギラリとその鉤爪を光らせた。

 一瞬の空白。


 そして両者は供に地面を蹴った。


 刃と鉤爪が宙で交差する・・・・・・・・・。






 

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