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「ポール、アナタはとても良い子ね」


 母はそう言って彼の頭を優しく撫でてくれた。


 その柔らかな掌の感触と聞き慣れたソプラノボイスがとても心地よくて、母が褒めてくれるのなら自分はもっと良い子になろうとポールはそう思ったのだ。


 ポール・トレイシー・ジャスティスは裕福な家庭に生まれた一人っ子だ。小さな頃から正義感が強く、学校で喧嘩が起こったら仲裁に入り、捨てられた子猫を見つけたら拾ってくるような男の子だった。


 正義感に溢れた彼の人生は順風満帆と言えただろう。


 両親は優しく、学校では友も多くいた。毎日真面目に勉強をしているおかげで成績は良かったし、身長も同世代の子供達と比べて大きく運動が得意だった。


 彼の人生は満たされていた。


 そう、


 あの日が来るまでは・・・。


 とある日の学校の帰り道、ポールは同級生の男の子が上級生の有名ないじめっ子に詰めよられているところを見てしまった。


 その瞬間に彼の中にある正義の心がメラメラと燃え上がる。


「何してるんだお前!」


 そう言って駆け寄ったポールはいじめっ子に対する怒りで我を忘れていた。呆気にとられているいじめっ子に掴みかかるとそのまま取っ組み合いの喧嘩に発展する。


 相手は上級生。いかに同世代の中では背の高いポールといえども上級生の喧嘩自慢より大きい訳では無い・・・いじめっ子の顔には余裕の表情があった。


 しかし彼は気がつかなかったのだ。ポールの中に眠る闘争本能に。


 肉食の獣は本能的に獲物をどの部分を攻撃したら殺せるのかを悟っているという。ポールは喧嘩に関しては素人だ。しかし彼の才覚はその正確とは反比例するように人を壊すという事にかけて他の追随を許さぬほどに天才的な能力を持っていたのだ。


 知識があったわけでは無い。


 しかしポールは的確にいじめっ子の顎を掌底で撃ち抜いて相手の動きを止め、そのまま地面に押し倒して馬乗りになった。


 そこから先は一方的な蹂躙だった。


 体が大きいとはいえただの子供に近代格闘術の中でも難攻不落と言われているマウントポジションが覆せる筈が無く、泣きわめきながらただなすがままに殴られるだけだ。


 気がつくとポールの足下には血だらけになったいじめっ子が小さなうめき声を発しながら転がっていた。


 ポールは返り血に塗れた自らの右手を呆然と見つめる。


 そして彼はそのとき、正義の為に振るった自らの拳が人を傷つける刃にもなると悟ったのだ。




 

  

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