喧嘩屋
「謝るなら今のうちだぞテメエ。いくらガタイが良いからってこの人数に一人で勝てると思ってんじゃねえだろうな?」
人気の無い路地裏。
淀んだ風が吹く。
その場にいるのは6人。チンピラ風の男達がそれぞれ思い思いの武器を持って一人の大きな男を取り囲んでいる。
囲まれた男の名はクラウス・アーロン。
愛用している緑色のニット帽がトレードマークの街で有名な喧嘩屋だ。
慎重180センチ体重120キロの巨漢で服の上からでも盛り上がった筋肉が確認できるのだった。
クラウスは自分を囲むチンピラ達を一人一人品定めするようにじっくりと観察すると脳内で一つの結論を導き出した。
即ちこの程度の相手になら本気を出すまでも無いという結論を・・・。
クラウスはズボンの両ポケットから両手で何かを取り出す。それは掌いっぱいに握られたいくつかの小石だった。
「・・・何のマネだ? その小石を投げるってか?」
小馬鹿にするようにそう言った男の横で、ナイフを握った目つきの悪い男が何かを思い出したかのようにぞっとした顔で呟いた。
「・・・待てよ? 緑のニット帽に・・・ポケットに詰めた小石だと? マズいぞみんな! コイツ喧嘩屋のクラウスだ! 能力者だぞ!?」
しかし気がついた時にはもう遅い。
クラウスは能力を発動した。
両手に握られた小石がふわりと宙に浮き上がり、彼の両手の拳部分に吸い寄せられるように集まっていく。
一秒後には彼の両拳は小石で形作られた籠手で覆われていた。
「さあやろうか雑魚共!」
数分後、その場に立っていたのは返り血に塗れたクラウスただ一人。地面には先ほどのチンピラ達がうめき声を上げながら転がっていた。
「ああ、つまんねえな」
そう呟きながら地面に転がる男を蹴り上げるクラウス。
彼は強者を渇望していた。
クラウスに取って強者との戦いこそが喜びであり、それ以外の全てが皆等しく平等につまらない些事なのだ。
「いやあ、派手にやったネ」
背後から訛りのある声が聞こえた。
振り返るとそこには顔の三分の一を占める巨大なサングラスをかけたアジア人の男が壁により掛かってこちらを見ている。
「何だお前、俺と喧嘩をしに来たのか?」
クラウスの問いに怪しげな男は首を横に振った。
「いやいや、私は頭脳派だから喧嘩はちょっとネ・・・そうじゃなくテ、君にとっておきの情報を持ってきたんだヨ」
「とっておきの情報だ?」
クラウスが眉をひそめると、男はニヤニヤと笑いながら言葉を続けた。
「喧嘩屋クラウス・アーロンくん。君はヒーローとの戦いに興味は無いかな?」
◇