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悪の敵

 ボサボサの黒髪にキリリとつり上がった眉。その鋭い眼光でじっと曇り空を見上げて男は小さくため息をついた。


 使い古した茶色の革ジャンの乱れを直し華やかな街から背を向けて薄暗い路地裏へとゆっくり歩を進める。


 男に名は無かった。


 かつて安穏に平和をむさぼっていた時にはあったのだが、とある事件をきっかけに男は自らの名を捨てたのだ。


 便宜上、男は自分の事をウルフと名乗っている。






 ウルフは行き慣れた路地裏の道をスイスイと進み、やがて目的の場所にたどり着いた。


 そこは寂れた酒場。


 華やかな表道の店とは違い、その外装はボロボロ。看板に書かれた文字は風化してペンキが剥がれまともに読めない。


 そんな店に入り浸る客もまともな筈が無く、客のほとんどが経歴に傷のある犯罪者か分け合って表の店には入れない爪弾き者ばかりだ。


 本当はこんな不浄な店ごと潰してしまいたい。


 しかしウルフは自身の内側から沸き上がる破壊衝動を必死に押さえつけた。


 確かにこの場所は不浄だ。しかし感情にまかせてこの場所を破壊するわけにはいかない・・・この場所は上手く使えば中々役に立つことをウルフは知っていた。


(この街にはびこる巨悪をすべて駆逐した後この店を潰す・・・それまではせいぜい利用してやるとしよう)


 落ち着きを取り戻したウルフは店のドアを勢いよく押し開けた。


 さび付いていたのかドアは思ったより大きな音を立てて開かれる。中で酒を飲んでいた強面の男達がウルフを見る。しかしウルフがその鋭い眼光でギロリとにらみ返すと、そのただならぬ雰囲気を感じ取ったのか男達は気まずそうに目をそらした。


 その情けない様子にフンと鼻を鳴らしたウルフは真っ直ぐに酒屋のマスターの元まで歩いて行く。そして顔なじみのマスターに声をかけた。


「よお、アイツはもう来てるかい?」


 ウルフの言葉に無言で頷いたマスターはジェスチャーで奥の部屋を指し示した。ウルフは小さな声で礼を言うと紙幣を数枚握らせる。


 そしてズンズンと奥まで歩いていくと部屋のドアを押し開けた。


 中は小さな個室となっており、店の汚さに比べると比較的小綺麗に片付けられている。いわゆるVIPルームという奴だろうか。革張りのソファーには一人の男が腰掛けていた。


 顔の三分の一を占めるような大きな黒いサングラスをかけたその男はどうやらアジア人のようだ。


 薄い唇に胡散臭い笑みを浮かべた男は大きく手を広げて友好の意を示した。


「おオ、これは我が友ウルフ。よく来てくれたネ」


「ああリー、久しぶりだな。今日もよろしく頼む」


 このアジア人は自らをリーと名乗る情報屋だ。


 リーは見ての通り胡散臭い男だが、彼の持つ情報は驚くべき精密さを誇っており、値は張るが信頼できる情報屋である。


「今日は何が知りたいんダ?」


 リーの言葉にウルフはゆっくりと向かい合うようにソファーに腰掛けると今回の依頼を切り出す。


「ソードという男について知りたい。偽名かもしれんが・・・裏の社会の人間で、超能力を持っている。恐らく身体の一部を刃に変える能力だ」


 その言葉を聞いたリーは出会ってからずっと浮かべていた胡散臭い笑みを引っ込めた。そしてウルフの顔をジッと見つめると真剣な顔でポツリと呟く。


「本当にそいつについて知りたいのかイ?」


「ああ、悪は滅ぼさなくてはならない」


 しばらくジッとウルフの顔を見つめていたリーは彼が本気だと悟ったのだろう。大きなため息をつくと立ち上がった。


「ウルフ、君の実力は知っているつもりだが・・・今回ばかりは相手が悪いと言わざるを得なイ。私の見立てだと十中八九君は勝てないだろウ。そのソードという男が強いというばかりでは無イ。そいつが所属している組織の規模が桁外れなんダ」


 今までに無い真剣なまなざし。大規模なマフィアを潰すと言った時もヘラヘラと笑っていたリーの、今までに見たことの無い表情だった。


「お前がそこまで言うならそうとうな敵だろう・・・しかしだからこそ俺はやらねばならぬ。悪は、この世から滅さねばならない」


 ウルフの目に浮かんだ狂う惜しいまでの殺意。


 リーはぶるりと身を震わせてウルフの隣に座った。


「わかったわかっタ。そこまで言うなら教えよう。ただし相手はこれまで以上に強力だと理解しておいてくれヨ」


「ああ」


 リーは頷いたウルフを見ると懐から何か封筒のような者を取り出してウルフの手に握らせた。


「頑張って、金はいつもの場所に頼むヨ」


「助かるよリー。また頼む」


 そう言って出て行くウルフの姿を見て、リーは深くため息をついた。


「面白い奴なんだけどネ・・・・・・たぶん死んじゃうんだろうナ」






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