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強さを得るために

「聞いたぞケイゴ。ヒーローなんてエラそうに名乗っている割には無様に敵に逃げられたそうじゃないか」


 何がおかしいのかニヤニヤしながらそう言う祖父に、ケイゴはまだジンジンと痛む腕をさすりながら不機嫌な顔で頷いた。


「・・・そうだよ」


「カカカッ! 弱い弱い! この田中敬三に学びながら敗走するとは何という弱さか!」


 独特の笑い方でそう言い放ったケイゾウは、ギロリと鋭い目線をケイゴに送り何かを放り投げた。


 反射的にソレを受け取るケイゴ。見るとソレは訓練用の木剣であった。


「構えろケイゴ! そのヘタレた根性をたたき直してくれる」


 するりと自分も木剣を抜き、祖父はその小さな身体に闘志を滾らせる。


 祖父のその衰えぬ闘気を感じ取ったケイゴはニヤリと笑うと身体のバネを使って跳ね起きて木剣を構えた。


 ケイゾウは超能力こそ持ってはいないもののその武術の腕はケイゴの遙か高みにいる。祖父との組み手で自分を高めることこそが彼がこの場所に来た理由なのだから。


「話が早くて助かるよじいちゃん」


 ケイゴはそう言うと鋭い踏み込みで一気に距離をつめる。下段から跳ね上げるようにしてケイゾウの胴を狙った一撃は熟練の体捌きにより最小限の動きでいなされた。


「動きが素直すぎるわボケが!」


 木剣を横薙ぎに一線。


 しかし老齢の祖父のその一撃は鋭さこそあるもののケイゴのソレより明らかに威力もスピードも足りない。


(これなら回避してそのまま反撃ができそうだ)


 そう判断したケイゴは身体を無理矢理捻って剣を回避するとそのまま反撃に転じようとケイゾウに向き直り・・・そして視界いっぱいに広がる下駄の踵部分を見た。


 顔面にめり込む木製の下駄の硬い一撃。


 ケイゴは鼻血を拭いて派手に転げると咄嗟に受け身を取ってそのまま立ち上がった。垂れてくる鼻血を拭って信じられないとばかりにケイゾウを見つめる。


「舐めるなよケイゴ、組み手だからとていちいちまともに試合をする必要は無いんじゃ。ワシを敵だと思って全力でかかってこい」


 そう言われてケイゴは自分の愚かさを恥じる。


 確かに舐めていたかもしれない。自身の祖父、ケイゾウ・タナカという人物の強さを。


 老齢だとか非能力者だとか関係ない。目の前の老人は確かに戦闘において自分を遙かにしのぐ達人であり、そして自分が目指すべき高みなのだ。


「・・・ごめんよじいちゃん。会うの久しぶりでちょっと遠慮してた」


 呟くようにそう言ってケイゴはグッと足を曲げて力を溜める。


 そして次の瞬間、ケイゾウに向かって踏み込むと見せかけてその場の地面を大きく蹴り上げた。舞い上がる土煙と同時に細かな石や砂利が祖父に向かって飛んでいく。


 ケイゾウはそのしわくちゃな顔をニヤリと凶悪に歪ませるとバックステップでそのつぶての攻撃から距離を取った。


(さて、どこから来る?)


 わくわく高ぶる気持ちを抑えきれないケイゾウは嬉しそうに周囲を警戒する。しかしどれだけ感覚を研ぎ澄ませても周囲に人の気配は無く、土煙に乗じて襲ってくると思っていた彼は少し拍子抜けしたような気持ちになった。


 しばらくして土煙が晴れる。だがそこにケイゴの姿は無く、ケイゾウは我が孫の姿をじっくりと探す。


「ふむ、どこかに隠れての奇襲かの・・・しかし・・・」


 その独り言の途中、彼の足下に広がっていた影がぬるりと動いた。


 影の中から飛び出してきたのは木剣を振り上げたケイゴ。彼はソレを容赦なくケイゾウに向かって振り下ろす。


 刃の無い木剣とはいえ、これほどの一撃をまともに受ければ命は無いだろう。


 そんな稽古にあるまじき奇襲を受けたケイゾウは涼しげな表情で足払いを仕掛けてケイゴの体勢を崩すと倒れかけた彼の腕をつかんで引き起こしニッコリと笑いかけた。


「今のはなかなかの奇襲じゃ。さて、腹も減ってきたし飯にするかの」








 焼き魚にライス、そしてミソスープと日本風のシンプルな夕食。


 ケイゴは使い慣れぬ箸で苦戦しながらもそっと焼き魚の身をほぐして口に運ぶ。ほどよい塩加減と魚の風味が口内に広がり、慌ててライスをかきこむ。


 ライスのほんのりとした甘さが焼き魚の少し強い塩気と合わさっていいようの無いハーモニーが生まれる。


 夕食にがっつく孫の姿を目を細めて見ていたケイゾウは、落ちついた頃合いを見計らって熱い日本茶を差し出しながら言葉をかけた。


「ケイゴ、お前今回はいつまでいられるんじゃ?」


「とりあえず一週間。修行の成果がでなかったらもう少し休みを延長するつもり」


「一週間か・・・まあお前は小さい頃に基礎を叩き込んであるから一週間あれば十分かな」


 一人頷く祖父にケイゴは尋ねる。


「ボク、一週間で強くなれるかな?」


 その質問に、先ほどまで優しげだった祖父の顔が武人のソレに変わった。


「ああなれるとも・・・・・・お前が途中で死ななければ、のお?」


 鬼気溢れるその雰囲気に呑まれながらも自身を強くしてくれる祖父への頼もしさと供に一抹の不安を感じるケイゴであった。






  

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