表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/103

ミスターT

 最初に動いたのはジェームズだった。


 至近距離で睨み合うなか、予備動作無しで鮮やかな前蹴りを繰り出す。つま先をピンと伸ばして右足を真っ直ぐに前に突き出すいわゆるトゥーキック。


 相手の鳩尾を狙ったその一撃は、しかしセルジオの加速能力の前に呆気なく回避されてしまう。


「遅せえよダボハゼがぁ!」


 残像が残るほどのスピードで加速したセルジオはジェームズの右隣に進むと彼の顔面を掌でガッシリと握り締めて、そのまま加速した勢いを乗せて押し倒すようにして地面にジェームズの後頭部を叩きつけた。


 グシャリと嫌な音が鳴り響く。


 後頭部を硬い地面に向かって思い切り叩きつけたのだ。常人なら即死の一撃である。


 しかしそんな残酷な一撃を放ちなおセルジオの攻撃は止まらない。倒れたジェームズの身体に馬乗りになるとその巨大な拳を大きく振り上げて力任せのテレフォンパンチを顔面に叩き込む。


 何度も、何度もだ。


 普通の人間ならこれ以上やると命が危ないという考えが頭に浮かんで拳が止まるだろう。しかしセルジオに良心の呵責などという生ぬるい感情は存在しない。


 ただ本能のままに殴る。


 きっとジェームズが死んだとしても彼の気が済むまでその拳が止まる事は無いだろう。


 そのまま勝負ありかと思われたその時、ジェームズがブリッジの要領で身体をグイッと持ち上げてそのまま身体を捻ってセルジオを振り落とす。


 素早く立ち上がるジェームズ。


 驚いた顔をしているセルジオに駆け寄ると両手を胸の前で構えてファイティングポーズを取る。


 コンパクトな動きで突き出される左拳と少し遅れて叩き込む右拳。ボクシングで言うワン・ツーの動き。


 不意を突かれてそのパンチをまともに受ける事となったセルジオは鼻血を吹いてのけぞった。


 さらに追撃をしかけようとジェームズが踏み込む。しかしこれ以上殴られてはたまらないとセルジオは加速能力を使用して後方に大きくバックステップをして距離を取る。


 ゼイゼイと息を切らすセルジオにジェームズはニヤリと笑って声をかけた。


「どうした? 何故加速能力を使って拳を避けない?」


「あん?」


 不機嫌な声を上げたセルジオにジェームズは続ける。


「避けなかったでは無くて、避ける事が出来ない・・・だろ? セルジオ・バレンタイン、お前にはそんな精密な動きを行う事が出来ない筈だ」


 その言葉を聞いてセルジオの顔が険しくなった。ジェームズは自分の予想が当たっていた事を確信して話を続ける。


「超能力とは読んで字のごとく人を超えた能力だ。本来人間に備わっている筈も無く、ソレが強力であればあるほど人体には大きな負担がかかる」


 セルジオの鍛え上げられた強靱な肉体。それは加速能力に耐えうる肉体をつくるため必死に鍛練を行った結果である。


「お前の加速能力は強力だ・・・だが身体は加速しても思考が加速するわけでは無いのだろう? 恐らく加速している間はお前自身にも周囲の様子は見えていない筈だ。故におおざっぱな移動に加速能力は使えても繊細な動作には使用できないと推測するが・・・どうやら当たっているようだな」


 忌々しげにジェームズを睨み付けてセルジオが吐き捨てるように言葉を返す。


「・・・そうだったら何だってんだ?」


「何、そうとわかったならもう遅れは取らない。確かにお前の加速能力は脅威だが大ざっぱにしか動けないとわかった以上いくらでも対処のしようはある」


 しかしジェームズのその台詞にセルジオは背筋の冷えるような恐ろしい笑みを浮かべて答えた。


「調子に乗ってんじゃねえぞ? テメエごときはその大ざっぱな動きだけで十分なんだよ」


 そしてズボンのポケットに手を突っ込むと中からメリケンサックを取り出して右手にはめ込んだ。


 メリケンサックをはめた右手を大きく振り上げ・・・次の瞬間その姿がかき消える。


 とっさにサイドステップを踏んでその場から離れるジェームズ。何かが通り過ぎたような風がふわりと彼の頬を撫でると、背後で大きな衝撃音が鳴り響いた。


 振り返る。


 そこには廃工場の壁に右拳を突き立てたセルジオの姿。コンクリで固められた壁は見事に拳大の穴が穿たれている。


「避けてんじゃねえよクソ雑魚がぁ!」


 壁から鉄拳を抜き、再びジェームズに向き直るセルジオ。


 相手の距離など考えずにただ己の能力を全開で発動して目の前にあるモノを鉄拳で殴りつける。


 その加速度は先ほどの比では無く、壁に空いた穴を見てわかるように一撃でも当たったらアウトだろう。


「次は当てるぜ」


 再び拳を構えるセルジオ。


 その表情は自身の勝利を確信しているかのように不敵に微笑んでいる。


 パリンと窓の割れる音。


 廃工場の窓、その一枚が割れて飛び出してきたのは一発の弾丸だった。ソレは真っ直ぐセルジオに向かって飛んでいきその右足を撃ち抜く。


 吹き出す鮮血。


 セルジオの顔は何が起こったかわからないとばかりに呆気にとられており、撃たれた衝撃で体勢を崩す。


 その隙にジェームズは駆けだした。


 一気に距離を詰めたジェームズはそのまま体勢を崩したセルジオ腹部に強烈な前蹴りを叩き込む。

 めり込む爪先。


 肺の空気は全て絞り出され、胃の中身が逆流する。セルジオはゲロを吐きながらその場にうずくまった。


「手加減はしておいたが動ける状態じゃ無いだろう? 私の勝ちだ」


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ