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病室

「災難だったなエマ、傷の調子はどうかな?」


「翼の方は完治しましたが足の骨折はしばらく治療が必要みたいです・・・この医療機関には治癒の能力を持った医師もいるようですが、それでもすぐに戦線復帰とはいかないでしょう」


 軍直属の医療機関で入院していたエマ。見舞いに来たチームリーダーのジェームズと傷の具合について話していた。


 ジェームズは決して先の任務については触れなかったが、ベッドに横たわったエマは申し無さそうな顔をして自らそのことについて話し始める。


「申し訳ありませんジェームズさん・・・先日の任務の失敗はすべて私の責任です」


 その言葉にジェームズはフムと頷いて口を開いた。


「失敗ね・・・何故自分のせいで失敗したのだと思ったんだい?」


「そうですね・・・初任務という事もあって私は張り切りすぎていました。きっと素晴らしい戦果をあげてみせると意気込んで・・・バディで活動しているというのに相手の事を全く考えていなかったんです。それに対してチビす・・・いえ、ケイゴ先輩は常に一人先行する私をサポートするように動いていたと思います。今回の敗因は傲慢な私のミスです」


 エマの言葉をじっと聞いていたジェームスは優しく「そうか」とだけ言うと立ち上がった。


「反省するのは良い事だ。だけど自分を責めすぎてはいけないよエマ。それに昨日の任務を失敗だとは私は思っていない」


「・・・え?」


 ジェームズの言葉はエマに取って意外なモノだった。


 入院中の身とはいえ、スマホなどでだいたいの情報は目に入ってくるのだ。あの事件に対する世間一般の評価が ”失敗” だと言われている事くらいエマ自身にもよく分かっている。


「不思議そうな顔だね。でももう一度よく考えて欲しい。犯罪者を捕まえる事は確かに重要なヒーローの仕事だ、それに派手な活躍は国のイメージアップにもつながる。世間的にすぐイメージすることの出来るヒーローの仕事だと言えるだろう」


「なら・・・」


「そう、犯罪者を取り締まる事は確かに大切な仕事だ。だけど私たちにはもっと大切な事があるんじゃないかな?」


 もっと、大切な事。


「・・・何でしょうか。新米の私には分かりかねます」


 エマの言葉を聞いて優しい瞳で頷いたジェームズはその ”もっと大切な事”について語り出す。


「なに簡単な事さ。それは一般市民を守るという事だ。例え犯罪者を捕まえたとてその過程で一般市民に被害が出たのならその任務は失敗だ。そういう観点から言うと先の任務は怪我人が出なかった。満点とは言えないが失敗では無いだろう? 誇ると良いエマ、君の正義は確かに人々を救ったのだから」


 輝く太陽のような笑みでそういうジェームズにエマは静かに頷いた。


「そう言って頂けると少し救われます・・・しかし改めて考えると困難な道ですねヒーローというものは。人を守りつつ強力な戦闘力を持つ犯罪者を制圧しなくてはいけないなんて」


 舐めていたつもりは無かった。しかし実際に任務を経験して初めてこの道の困難さを感じたのだ。

「そうさ、だからヒーローには強さが求められるんだ。犯罪者に対抗できるレベルではまだ足りない。敵を圧倒的に上回るようなそんな常人離れした強さがね」


 そう言った後ジェームズはちらりと腕時計を確認する。


「すまないエマ。私はそろそろ仕事の時間なものでここいらで失礼させて貰うよ。ゆっくりと休んでくれたまえ、任務の方は私とルーカスでやっておくから心配はいらない」


「ええ、お言葉に甘えて回復につとめます」


 ジェームズが退室し、病室にはエマ一人だけが残された。


 失敗では無いとジェームズは慰めてくれた。しかしエマの心に残ったトゲは簡単に消えそうに無い。


 もっと自分が上手くやれていれば。


 変な対抗意識など持たずにケイゴと協力をしていれば・・・後悔の種は尽きない。


 エマは大きくため息をつき窓の外を眺めた。


 どうやら彼女が心の整理をつけるには少し時間が必要らしかったのだ。




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