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13/103

  マフィア・ヴァイスファミリーの幹部であるカルロスは常に余裕の表情を崩さない普段の彼とは打って変わって必死の形相で夜の街を駆けていた。


 長い髪は汗でべったりと額に張り付き、運動不足のせいか脇腹がキリキリと痛む。


 人気の無い路地裏で立ち止まったカルロスは周囲に誰もいないのを確認すると壁に手をついてゼイゼイと息を切らした。


 今夜は月が嫌に明るく見える。まるで自分の事を監視しているような錯覚を覚えてカルロスは忌々しげに空に昇る月を睨み付けた。


「アォオオォオオン!!」


 獣の遠吠えが夜の街に響き渡る。


 ソレを聞いたカルロスはまるで非力な小動物のようにビクリと身体を震わせて血眼で周囲を見回した。


「来るっ・・・奴だ・・・」


 震える声で呟いたその声が聞こえていたかのようにカルロスの目の前に何者かが高所から飛び降りてきた。


 音も立てずにコンクリートの地面に着地したソレはゆっくりと立ち上がるとその鋭い眼光でカルロスを見据えた。


 中途半端に狼という種を模倣した獣のなり損ない。シルエットは人のソレなのにふさふさとした毛並みも鋭い獣の爪も、大きなアギトから除く犬歯も・・・その特徴はすべて狼そのものであった。


 人狼と言った方がわかりやすいだろうか?


 しかしソイツは一般的に人狼と言ってイメージするその姿からは程遠い、何か醜悪な出来損ないのような不快感を持っていた。


 狼から気高さだとか美しさだとかいう要素を、人から知性という要素を抜いて、それぞれの醜い部分を集結させたら目の前の怪物になるのだろう。


「グルルル・・・」


 低くうなり声をあげながら怪物はゆっくりと距離を詰めてくる。


 カルロスはガタガタと震えながら己の不運を呪った。


「ちくしょう・・・なんでこんな奴に狙われなくちゃならねえんだ・・・」


 何も変わらない何時もの夜だった。部下を引き連れて飲みに出かけ、ベロベロに酔っ払って帰る道中コイツは現れたのだ。


 最初は普通に人の姿をしていた。


 ソイツが行く手を阻んだモノだから酔っていた事もあって部下の一人が息巻いてソイツの胸ぐらを掴んだのだ。


 次の瞬間、その部下の首が飛んでいた。


 変貌した奴は醜い化け物となってカルロス達に襲いかかったのだ。


「・・・悪は絶たねばならない」


 初めて言葉を発したソイツの声は、まるで人間と異なる声帯を持つ動物が無理矢理人間の言葉を発したかのようで、息の抜けるような音を混ざって非常に聞き取りづらいものだった。


「悪を絶つだと? な、なんだヒーローかよお前。何だか知らねえけど降参だ。な? 何も殺すことはねえだろ? 大人しく捕まるから警察につれてってくれよ」


 必死の命乞いをするカルロスにゆっくりと近づいたソイツは、無造作に右手を振るうと決して小柄とは言えないカルロスの身体を一瞬で物言わぬ肉の断片に変えた。


「・・・ヒーローなど生ぬるい。俺は正義の味方では無い」


 月光がゆっくりと血に染まる一匹の獣を照らし出す。


 夜の闇に佇む血だらけのその姿は、まさしく怪物と呼ぶに相応しい風貌であった。


「俺は悪の敵だ」







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