革命 10
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ドクドクと傷口から絶え間なく流れ出る血。エマは痛みに顔をしかめながら、油断すること無く目の前の相手を見据える。
この出血の量では長くは戦えない・・・狙うは短期決戦。もしくは奥の部屋で戦っているジェームズを連れて戦線を離脱すること。
エマの能力であれば、一人を抱えて飛行をすることは可能だ。しかしむやみやたらに飛んだとて、射撃の名手である ”ガンマスター”ことルーカスに狙い撃ちされてしまう。
ならば最適解としては目の前の相手をすぐに無力化してジェームズの加勢に向かう。それがベストだろう。
そこまで考えてエマは苦笑いをした。そのベストな動きこそが最も困難であると知っていたからだ。
目の前で中途半端な長さの刀を構える黒装束の小男・・・”ニンジャマスター”ことケイゴ・タナカ。何故敵対しているのかはわからないが、相手が彼という事が問題なのだ。
影を移動する彼の能力と、日本の古流武術を織り交ぜた特有の戦闘スタイルは、四人のヒーローの中でも近接戦闘と隠密行動において群を抜いている。
ジリジリと間合いを計るエマ。黒装束に隠れて表情の読めないケイゴ。そして、先に動いたのはケイゴの方だった。
刀を持っていない右手を懐に入れると、中から手裏剣をとりだして投擲する。
極限まで無駄をそぎ落としたような最適化された動き。最初から彼が手裏剣を武器にすると知っていなければエマは反応できなかっただろう。ケイゴが懐に手を突っ込んだ瞬間にエマは能力を発動。翼を羽ばたかせて宙に浮くと、トリッキーな動きで手裏剣を回避する。
そのまま宙を歩くようにして一気に距離を詰めるエマ。しかしすでに視線の先にケイゴの姿は無かった。
(消えた? ・・・能力を発動したのなら出てくる場所は・・・・・・)
エマは自身の足下に出来ている影を警戒する。
ケイゴの能力は万能に見えて、能力の発動可能時間が極端に短いという弱点がある。即ち彼の姿が消えたという事はすぐに別の影から姿を現すという事。
彼の特性を読んだエマの行動。腰のホルダーからスタン棒を取りだして構える。ケイゴが影から出現した瞬間にこの武器で行動不能にする算段だ。
1秒、2秒・・・ケイゴの姿は現れない。
おかしい。能力を使ったのならすでに姿を現している筈だ。周囲を見回す。彼の姿はどこにも見当たらない。
次の瞬間、ジェームズとルーカスが戦っていた奥の部屋から悲鳴が聞こえた。
「まさか!?」
エマは痛む足を無理矢理動かして駆けだした。
部屋の中に駆け込むと、そこには血だらけで床に横たわるジェームズと、彼にトドメをささんとしているルーカスとケイゴの姿。
甘かった。
機動力の高いケイゴが、何故馬鹿正直に自分と正面から戦うと思ったのだろう。二対一で確実に一人ずつ片付ける方が確かに合理的だ。
エマは能力を発動して翼を大きく広げる。
(間に合え!!)
高速で二人に接近するエマ。しかし無情にもケイゴの刃はジェームズに向かって振り下ろされ・・・突如現れた人身大の火球が、ルーカスとケイゴを吹き飛ばした。
炎に包まれて転げ回る二人。
エマは唖然として火球の飛んできた後方を振り返った。
「ヒーロー ”ウィング” 、どうやらピンチだったようだね」
すらりとした痩せぎすの体型。上質なスーツに身を包んだ男は、その顔にハロウィン用の怪物マスクを被っていた。
ジョセフ・ボールドウィン。
かつてケイゴが捕らえた凶悪なテロリストの姿がそこにあった。